桜ドロップス-2
「高松先生」
「何だ?どうした」
机に向けていた体を咲に向けたのは高松一也。咲のクラスで数学を教えている。
茶色の髪を少し短めに切って眼鏡をかけている高松は端正な顔立ちや印象と裏腹に、真面目で情に脆い人物であった。
しかし、その性格が災いして、意外にも生徒からの印象は悪く、人気はあまりなかった。
咲自身、彼が赴任したての頃は嫌っていて、しょっちゅう授業をサボっていた。
だが、いつからだろうか、彼女の心に違う感情が芽生え始めた。
それを彼女が自覚するのと同時に不幸が襲った。
高松が今年度いっぱいでこの学校を異動するというのだ。
生徒からの評判が良くないことが教育委員会にも知れ渡り、「このままでは生徒にも彼自身にも悪影響だ」と、遠くの学校に行くことになったのだ。
だから咲は決心した。
3月までに告白しようと。
「先生、これ…」
そう言って、先程からポケットの中で握っていた20円チョコを渡す。
高松は一言「ありがとう」と微笑み、また机に体を向き直した。
分かってる。だから20円チョコにしたんだ。
先生の本命はあたしじゃなくって、彼女だってことくらい。あたしからのチョコだって義理だと思われてるんだろう。
でも、それでいい。
咲は職員室を後にした。
そして、話は現在に戻る。
「バレンタインって…。あたし、お返しとか全く期待してなかったのに。それに、あげたのただの20円チョコじゃん」
「でも、俺は佐倉から貰えて嬉しかった。だから受け取ってくれ」
「うん…。ありがと!!」
そのまま走ってその場から遠ざかった。