ベルガルド〜治癒の儀式〜-1
川に落ちた後、男の子に会ったこと。
一緒にヨンウォン教の教会に入ったこと。
そこで恐ろしく強い魔力を持った1人の女性に会ったこと。
ぽつり、ぽつり。
私はベルガルドに話した。
彼は口を挟むこともなく静かに、私の話しに耳を傾ける。
「あなたの弟…オレンジ色の髪をして、すごく優しい男の子ね。彼がいなかったら…私、殺されていたかもしれないわ。」
「その女にか?」
「えぇ。すごく魔力が強くて、怖いくらい美しい女性だった。ひょっとしたら…ベルガルド…あなたより魔力が上かもしれない…。」
「……。」
あの時はその強大な魔力にただ圧倒されるばかりだった。
しかし、冷静に考えて、あれは現実だったのだろうか?
実力主義の魔族の国。
そこで絶大な権力を誇っているベルガルド=レオーベン王。
彼よりも強い魔族が存在することなど…本当にありえるのだろうか?
そこでベルガルドが口を開いた。
「俺は、俺より強い奴の心当たりがある。」
「!!?」
私は目を見開く。
しかし、ベルガルドは私と目を合わせずに、ただ、真っ直ぐ前を見据えているだけだ。
「俺の先代の王を知っているか?」
「えぇ、バーグデルド=レオーベン。あなたの父親でしょう?あと一歩でヒトを完全に支配するという時になって、突然死したと聞いているわ。」
「あぁ、10年前だ。親父が…殺されたのは。」
「殺された!?圧倒的な破壊力を誇示していたバーグデルド王が!!?」
「…親父を殺した奴なら、俺より強い可能性だってあるはずだ。それに、ラルフの手紙にも書いてあっただろ?“全ては、10年前から始まっている”と。」
「じゃあ、まさか…あの女の人が、ベルガルドのお父さんを殺したっていうの…?」
「……。とにかく、話は後だ。そんな奴がこのスベニ国にいる以上、別行動は危険でしかない。早くカイと合流するぞ!」
「そうね、二人が心配だわ。」
私達は森の中、先程までいた馬車を目指して急ぎ始めた。