ベルガルド〜治癒の儀式〜-5
*
「さ、これで、おっ、けい!」
僕はバサバサと大量の“ソレ”を床にばら撒いた。
「カイ様?これで…一体どうするつもり?」
セシルが目をぱちくりさせているのも無理は無い。
宿の部屋一面に敷き詰められた白い薔薇。
セシルはその真ん中に立たされているのだから。
「もちろん!回復の魔術だよ。」
「魔術!!?」
そのワードを聞いただけでセシルは青ざめた。
よっぽど、DR中毒になった時の経験がトラウマになっているのだろう。
「だーいじょうぶだって!これだけ白薔薇を集めれば、毒は全部こっちに吸収される。DR中毒にならずに、最速の治療が出来るわけさ。流石にディーゼルさんにこの様子を見せるわけにはいかないから、ここでやるけどね。」
「足、治るの?」
「うん、一瞬で。回復の魔術は結構魔力使うから、1時間くらいは魔術を使えなくなるけど。まぁ、たいして使うこともないだろうし。」
「ありがとうカイ様!!私、早くトゥーラ様に追いつきたいから、だから足…お願いします…」
セシルは拳をぎゅっと握り切実な顔で訴えている。
「わかってる。サンドールの化け物の話聞いたら…僕も、本気を出さないと、ね!」
魔力を手に集中させる。
緑色の、癒しのオーラを、全身から手のひらの一点に集中させる。
白薔薇が次々と黒く染まり、花びらを侵食していった。
セシルはその様子を眉間にシワを寄せ、見つめている。
「いくよ。」
集中させた全てのエネルギーをセシルの足首へ送り込む。
「なんか…暖かい。柔らかくて優しいものに包まれてるみたい…」
僕の額から一筋、汗が流れた。
こういう魔術は集中力を使う。ベルのような破壊の魔術なら魔力の大きさに左右されるが、バリアや回復など、補助的な魔術は集中力を必要とする。
それゆえ短時間のうちに多用することができないのだ。
「よし、セシルちゃん足動かしてみて。」
セシルはディーゼルに施された応急処置をほどくと、足首を色んな角度に動かし、目を見開いた。
「治った…。治ったよ!!?カイ様―――!!!」
「当然。伊達にベルの付き人やってないからね。」
そう言ってふっと笑ってみせた。
その時だった。
バン!!
勢いよくドアを開く音がしたかと思うと、黒装束に身を包んだ男たちが僕達に銃を向けた。
「なっ…!!」
「何よ、あんた達!そんな物騒なもの向けて…」
声を押し殺したような笑いが聞こえる。
リーダー格と思しき人物が前に進み出た。