ベルガルド〜治癒の儀式〜-4
「俺はディーゼルだ。仕事っづっても自給自足で暮らしでるから、畑仕事なんかをやってるんだけんど。最近は馬車の事故なんかが多いらしいど?なんでも、サンドールに化け物がいるって噂でな、馬たちはそれを察知して逃げちまうんだと。」
僕たちは絶句した。
「そんな、トゥーラ様…。」
セシルは涙目になっている。
「ま、噂でしかないんだけんどな。それにしてもお前さん達が無事でなによりだ。」
どんな化け物がいたとしてもベルに勝てるわけないし…大丈夫。と、僕は自分に言い聞かせた。
「この町、いや、この国はもうおしめぇさ。お前さん達もさっさと用事済ませて出てっだ方がいい。」
「どうしてみんなこんなに暗くなっちゃったの?」
セシルが怪我した足をさすりながら、ディーゼルに尋ねる。
「お前さん達、ヨンウォン教って知っどっか?」
僕たちは顔を見合わせた。
「その宗教…名前だけ聞いていますけど、詳しくは…」
「ほんだよな。なんでも“ヨンウォン”っていうのは異国の言葉で“永遠”を意味するらしぐでな、永遠の命を得られるっていうことをウリにしてるらしいでな。」
「永遠…?」
その根拠の無い言葉を噛締める。
―もうすぐ永遠が約束されるんですから
あの医者の言葉が蘇った。
この国の人たちはみんなそんな事を考えながら暮らしているというのか?
「バカバカしいわ!永遠なんてもの有り得ないじゃない!!どうやったらそんな宗教に引っかかるのよ!」
「僕も同感だな。そんだげど…」
ディーゼルさんは目を細めて僕たちの方を真っ直ぐに見た。
「それが可能なんだと。」
「は?」
「ヨンウォン教の連中は魔族の力で永遠を手に入れようとしているって聞いたど。」
僕は目を丸くする。こんなところで“魔族”という言葉に触れることになるとは思ってもみなかった。
それに、魔族の力を持ってしても、そんな魔術を完成させた者はいないはずだ。
僕の知る限りでは…。
「馬鹿な…っ!例え魔族でもそんなことができるわけがないですよ。」
「そうなの?カイ様!」
「魔族に詳しいのが?坊主!」
二人は僕を食い入るような目で見る。
そうか。
ヒトは魔族というだけで、万能なのだと勘違いしているのかもしれない。
そのヨンウォン教という宗教にはまってしまうのもそういう理由からだろうか?
「下級魔族ならたいしたことは出来ないですよ。上級だとしても、時間を操るとか、そういう高度な魔術には対価を必要としますし…まして永遠なんてものは命を対価にしても無理だと思いますよ?」
二人はとても熱心に話を聞いてくれているが…複雑だ。
ここまでヒトに誤解されているとは。怖がられるのも無理はない。
「今日はウチさ泊まってぐか?不真面目かもしらんが一応町の宿もやっでるみたいだけんど。」
「ありがたいですが、やることがあるので僕たちは宿の方に…。」
セシルは不思議そうな顔で僕を見た。僕は彼女に向かって微笑む。
帰り際に思いついたようにディーゼルさんに尋ねた。
「そういえば、白い薔薇がたくさんある所って知ってます?」