ベルガルド〜治癒の儀式〜-3
「すみませーーん。」
返事はない。
「すみませーーーん。」
ガチャ
扉が開いた。
「うるさいなぁ、何か用ですか?」
「あの、こちらにお医者様がいると伺ったのですが…」
「はぁ、自分がそうですが、今は診察してないんで。失礼します。」
医者と名乗る男は早々にドアを閉めようとする。
僕は慌てて閉じかけたドアを掴んだ。
「ちょ、ちょっと!この子が怪我しているので、看てあげてください!!応急処置でも構わないので!」
「お願い、おじさん!」
背後でセシルも頼んでいる。
医者の男はちらっとセシルの足を見て溜め息をついた。
「治療なんて必要ないですよ。もうすぐ永遠が約束されるんですから。」
そう言うと、ぽかんとしている僕とセシルを無視して扉が閉じられる。
何がなんだか分からないまま、締め出されてしまった。
「どうなってるのかな…?」
「変なこと言ってた…永遠とかなんとか…意味わかんない!!」
「この町…いや、この国全体が…何か、おかしい。」
僕たちは途方にくれつつも、先程のまともな男に話を聞いてみることにし、あの木造の家に足を向けた。
「お前さん達、今度は何しに来た?」
そう言いながらも男は家の中に招き入れてくれる。
軽いとはいえ、長時間セシルを背負っていたことで、腕もかなり限界だったので一安心した。
「この町一体どうなってるんですか?お医者さんもおかしなこと言ってるし…」
「診察もしてくれなかったんだから、仕事放棄しちゃって!!こんなところで道草くってるわけにいかないのに…っ」
セシルは相当苛立っているようで、大きな声で怒鳴ってしまっている。
「まぁ、何もないけどよ。適当な所にでも座ってくれ。」
辺りを見渡すと全く生活感のない部屋だった。
ワンルームでキッチンもあるが、家具の類が見当たらない。
とりあえず、ふさふさの白いカーペットの上にセシルを座らせた。
「そのお嬢さんの怪我ひどいのか?救急箱くらいならあるど?」
「あ、はい…それが応急処置も出来ないもので…」
僕は心底情けなくなって、俯く。
こういうことは苦手だ。魔族なら魔術で治せば済む話なのに。
ヒトにそんなことをしたらDR中毒になってしまうし…。
その男は仕方ないという風に首を振った後、添え木をして、包帯を巻き、セシルの手当てをしてくれた。
この大男が、不恰好な大きな手でちまちまと手当てをする姿は余り似つかわしくなかったが、僕たちは心から彼に感謝の言葉を贈る。
「僕はカイ。彼女はセシルです。アーレン国からの使者なのですが、途中馬が逃げてしまってこんなことに。」
僕はセシルの足に視線を向ける。男はそれを聞き、深く唸った。