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捨て猫
【コメディ 恋愛小説】

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捨て猫-1




パソコンの光が目に眩しい。
カーテンを締め切った暗い部屋では、当然の事だ。
顔を上げると、驚くくらいに視界がぼやけた。
暗闇の粒子と粒子の間隔が広がった気がする。
また視力悪くなったな、俺。
自分の事が、まるで他人事のように感じられた。
もう自分は、ここにいなくて、ここにいる自分は抜け殻なのかもしれない。
なんて。
思いもしない事を、考えながら、パソコンの画面に目をこらす。
動画共有サイトは今日も活気がある。
たまに、プッと吹き出すような笑いが起こるから、止められない。いやむしろ、止め
てしまったら、俺はどうかしてしまうじゃないかと思う。
何もしていないと、どうしてもあの事を考えてしまうから。
忘れもしない二ヶ月前、たしかに起きたあの事件。

言葉は万能だ。
時に盾となり、人を守り、時に剣となり、人を攻め、時に本となり、人を悟し、時に
橋となり、親睦を深めることができる。
だが、使い手は十分に使いこなせるとは限らない。盾としたつもりが剣になることも
ある。
そしてそれは時に致命傷にもなる。俺は、それをしてしまったのだ。

雨が短い糸のように降り注いでいる。
暗雲は見える限りの空を全部覆い、その侵略地を地上にも伸ばす勢いだ。
もちろん、そんなことはないのだけれど。
こんな日にコンビニに出掛けるのは、気が進まない。
母親にでも頼もうかとも思ったが、ここのところ昼間は姿を消す習慣ができたよう
で、もう家にはいなかった。
きっとこんな息子に愛想が尽きたのだろう。
女手一つで育てた一人息子がこれだ、悲しくならない方がおかしい。
仕方なく、傘を持ち外に出る。
早速の雨水の出迎えを俺の顔が受け止めた。
気持ち悪いほどヌルい梅雨の雨水は、少し新鮮だった。

コンビニで買い物を済ますと、足早に家路に向かう。その途中の空き地に目が止まっ
た。
売却中の看板の立ち、雑草が、ここは我が土地と言わんばかりに、20m四方の空き地
に蔓延っている。
真ん中に見える三つの土管は、まんま金曜7時のアニメに出てくるレイアウトで配置
されている。
小さい頃、売却中の看板も何のそのと、よくここで遊んだものだ。
「アイツともここで……」
そこで思い出すのを止めた。またあの事を考えてしまいそうだ。
そうして、俺は空き地を離れようとした。
「ん?」
そこで違和感に気がついた。
何かが土管の中から飛び出しているのだ。
それもほんの数ミリだけ土管から出ている。
そのまま、通り過ぎようかととも思ったが、好奇心が俺を捕まえてしまった。
悪戯防止の簡易的柵を越え、土管に向かう。
近づくにつれ、それの正体が掴めてきた。
それは……
人の髪の毛だった。
だが、ここまで来ると、もう好奇心は俺を止めることをしない。
好奇心に背中を押されるようにして、俺は、土管の中を覗き込んだ。


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