捨て猫-3
部屋に入るなり、猫耳娘は、俺のクローゼットを漁り、とりあえず着られそうな物を
探す作業に入った。
もう、そこまで世間を逸していると、人間とは不思議なもので、それが至極当然であ
るかのように見てしまうらしく、俺は黙って、座りながらその一部始終を観察してい
た。
猫耳娘のお尻がこちらに向く、白い尻たぶが見えるか見えないか、というような、ど
うにも魅力的なアングルだ。
内心少し期待しつつ、俺は眺め続ける、と何かがオカシイのに俺は気づいた。
尻から、正確に言うとその少し上から、色のついた綱のような物が生えているのだ。
長さは60、70cmくらいで、何やらとても柔らかそうだ。
だが、これは俺の知っているいわゆる普通の女の子には、くっ付いているものじゃな
い。
彼女の猫耳を思い出す、あれが耳だとすると、これは……
「尻尾ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
ベしんっ!
尻尾と思われる物体が、頭に結構な勢いで当たった。
柔らかそうに見えたのだが、中身というか、芯はしっかりしているようだ。
「いちいちリアクション大きい!」
また、怒られてしまった。もしかしたら、猫耳や尻尾を彼女は彼女なりに気にしてい
るのかもしれない。
するとようやく彼女は、気に入った服を見つけたようで、満足そうに頷くと、おもむ
ろに服をその一枚のTシャツを脱ごうとした。
「と、ストーーーーープ!」
「何よ?」
「部屋を出て行きますので、しばしお待ちを」
俺はそう言って、そそくさと自分の部屋を出て行った。
自分の部屋で裸体を拝むようなことがあったら、自分がどうかしてしまいそうだ。
それこそ倫理に負けて、あの子を押し倒しかねない。
と、そこで俺は思った。
普通こういうのは、男が気を利かせるものじゃなく、女から『すみません、着替えま
すので』と顔を少し赤らめながら、目線は少し下に向けつつ、恥ずかしそうに頼むも
のじゃないか、と。
普通そうであるのに、猫耳娘はそうでなかった、つまりこれは……
押し倒してよかったんじゃん。
「って、んなわけあるか」
自分の考えを即座に自分で打ち消す。
押し倒してよかったんじゃない。
さっきからの彼女の行動、そして容姿を見る限り、普通ではないのだ。
だから、通常持つはずの羞恥心も持ち合わしていない。つまりそういう事だ。
自分の論理の鋭さに惚れ惚れしながら、犯罪に走らずよかったと安堵しながら、猫耳
娘が着替え終わるのを俺は待った。
30分立った。
この何も無い廊下では、30分という時間を潰すだけでも相当な苦痛を有する。
もし人間を最も苦しめて殺そうと思ったら、こんな何もない空間に餌を与えつつ、放
置してやるのが一番だと思う。
そう考えると、動物達はとても哀れだ。
檻にでも入れられたら、こんな苦痛を一生受け続けなければならないのだから。
人間でよかった、そんな馬鹿みたいな喜びを噛み締めながら、俺は立ち上がった。
さすがに、もう掛かりすぎだ。
カチャ
ドアノブが回り、扉が開く。
人影は見当たらない。
が、直後ベッドの上が妙に膨らんでいるのが目に止まった。
猫耳娘は……寝ていた。
心底幸せそうに、俺の待ち時間など頭の片隅にもないように。
考えてみれば、呼びにこないのも、当たり前だ。
彼女の頭の中じゃ、どうして俺が部屋から出ていったのか、想像もついていないのだ
ろうから。
だからといって、起こしてやるのもかわいそうなので、そのままパソコンの前へと移
動する。