捨て猫-15
5
次の日の朝には、もう雨は止んでいた。
窓から差し込む夏の残りカスみたいな光が、容赦なく部屋の温度を上げている。
これで、パソコンを立ち上げてしまえば、いつもの日常。
でも、俺はそれを選ぶわけにはいかなかった。
三ヶ月ぶりの制服に着替え、成長期の終わりを痛感しつつ、一言、同居人への挨拶を
しようとベッドに近寄る。
いつもユキは、10時起き。
まったくヒキコモリの鏡のようなヤツだ。
そこに彼女はいなかった。
いつもならば、膨らんでいるはずの掛け布団は大きく捲られて、中身の無さを強調し
ている。
どこをどう見ても、彼女は消えていた。
トイレにでも行っているだろうか、と視線を巡らせるが、すぐに彼女が出ていったこ
とを確信した。
昨日脱ぎ捨てっぱなしであったはずの白いワンピースがない。
なんだかんだ言って、彼女はあのワンピースを気に入ったらしい。
出ていった。
たぶん、彼女は何が気にくわないとか、そう言う理由ではなかったのだと思う。
だからと言って追われる自分をかくまう俺を、心配してのことでもない。
俺には何となくわかる。
彼女は俺に情が移って、自由に生きられなくなることを恐れたんだろう。
彼女は、猫じゃなかったんだ。
母親のギョッとしたような顔を尻目に、道路へと躍り出る。
早く起き過ぎた朝の住宅街の景色は、とても新鮮だった。
道路の傍らに咲く雨に濡れた雑草、遠くで聞こえる飼い犬の声、澄んだ空。
澄んだ空には、一つ雲が浮いていた。
猫耳を生やしたような、丸っこいの雲。自由気ままに浮かんでいる。
それを見て霞む目を擦りつつ、俺は走り出した。