遅雪-4
「そんなことないですよ。この雪も、きっと何かしらの意味をもっているのですから」
「何かしらの意味…」
もしかしたら、まだ間に合うかもしれない。
今なら、義父が言いたかった言葉が聞けるかもしれない。
「ごめんなさい、あたし…!」
そう言って男に頭を下げ、私は走り出した。
あの家に向かって。
彼のもとへ。
「お義父さん!!」
家に着くと急いで義父の方へ向かう。義父は一瞬驚いた顔をしたが、窓の方へ顔を向けて突然話し始めた。
「覚えてるか?母さんが死んだ後、俺がお前に言ったこと」
「『雪が降ったらお前に言いたいことがある。それまでは俺はお前の家族でいる』でしょ?」
義父は目を見開いてこちらを向き、そして穏やかな笑みを見せた。
「そうだ。その通り。この国じゃ雪なんか降るのは稀だからそう言ったんだ。ずっと家族でいられるように。でも、お前はもうじき俺から離れていく。だから言う必要も無いと思ってたんだけどな」
「言って。お願い。お義父さんの口から聞きたいの」
その方がこの貴方に対する気持ちにも諦めがつくから。
義父は少し黙って、真剣な顔をしてこちらを見た。ブルーグレーの瞳には何の濁りもない。
「俺は、お前と家族でいるのをやめようと思う。だから、」
「今度は『娘』としてではなくて『妻』として俺のそばにいてくれないか」
「えっ…?」
突然の告白。私は事態をうまくのみこめてはいなかった。
「てことは、つまり…」
「結婚してくれ」
その瞬間、涙が溢れ出した。
嬉しくて、嬉しくて、どうすればいいのか分からない。
思わず目の前にいる義父に抱き付いた。彼は私が泣き出したことに焦っていたようだった。