若草ポルカ-1
誰かに髪を撫でられた気がして目を覚ます。
側には誰もいなくて、閉め忘れた窓から柔らかな風が頬をかすめた。
あぁ、もう春か。
若草ポルカ
春は生命の喜びを感じ、夏は強い日差しのもと汗を流し、秋は作物の恵みを祝って、冬は寒さに耐えながら春を待つ。
一昔前はそんな日々が続いていたようだ。
しかし、温暖化などによる大きな環境の変化によって人類の体質も変化し、今では人間も冬眠をするようになった。
「うわー、床がびしょびしょ。こりゃ雪が降ったな」
大量の雪が窓から入り込んだようだ、床には水たまりができている。
俺はとりあえず食事をとってから掃除することにした。
作物不作のために新しい食品として生まれた栄養カプセルを飲む。これ一粒で1日分のエネルギーが詰まっているんだから驚きだ。
モップとバケツを持って寝室へ戻る。モップで床の水を吸い取り、絞り、また吸い取るという作業を繰り返した。腰が痛い。
俺は雪そのものを見たことがない。『冬の間に降るもの』というのだから、雨とも雹とも違うのだろう。
どれにしても、元は水に変わりないのだろうが。
掃除を終えた後、俺はまたベッドに倒れ込んだ。
開いている窓から見える外の様子。
寝る前に見た景色は寂しいものだったが、今は違う。木々が風で小さく揺れ、あちこち緑が見える。
少し、外の様子でも見に行くかな。
俺は外に出ることにした。
さわさわと音を出している木の葉。一面緑のその場所には所々ピンクや黄色の花が咲いている。
自分でもよく分からないが、なぜか公園まで来てしまった。
公園には俺以外、誰もいない。
冬眠から目を覚ます時間は個人差があるが、毎年起きる時期になると国から支給された目覚ましが鳴る。ここに来る途中誰にも会わなかったことから、どうやら俺は早く起きてしまったようだ。
一息つこうとポケットの中の煙草を口にくわえる。しかしライターが見つからない。