未来と過去と今と黒猫とぼく ー黒猫編ー-2
幸せになる事が意味さ。
幸せは永遠じゃない。
君はこの世たった一人なんだよ。
代わりはいるだろう、いくらでも。
君は君だ、それでいいだろう?
だからぼくって誰だ?
くろが悲しむよ。
くろはもう死んだ。
ゆう姉さんはどう思うかな?
ゆう姉さんも、もう死んだ。
死にたいの?
そうじゃない。
生きたいの?
バカを言うな。
風で体を冷やされながらも、ぼくはまるで約束を遵守するように考える事を辞めなかったが、自問自答の答えはもちろん出なかった。
それを教えてくれるような人も今のぼくの周りには居なかった。
一人だけ頭に浮かんだが、その人はもう、何年も前に死んでいた。
仕方なくぼくはくろの墓に向かって話しかけた。
なぁ、くろ。
18年は短いと思う?
長いと思う?
またくろの墓を撫でた。
手に温もりは無かった。
この世は地獄です。未来永劫に変わらない永遠の地獄です。友達のおじいさんは死にました。癌でした。顔見知りの子供は死にました。虐待でした。隣の妙齢の女性は死にました。難産による出血死でした。顔も知らない青年は死にました。ただのよくある事故死でした。変わって欲しくない物は山ほどあるのに、そのままではいられず、変わって欲しい物は変わらない。いつだって傍に居てほしいのに、勝手に何処か遠くへ行ってしまうのですよ。どれだけ寄り添おうと、どれだけ抱きしめようとね。自由気まま、勝手気まま。はは、どこか私の用ではありませんか?私はねぇ、坊ちゃん、これでもあなたより此処に居るのは長いんですよ。あなたに見えない物も、私には沢山見えています。あなたの知らない事も沢山知っていますよ。そんな私でもねぇ、あなたが今考えている事の答えは、微塵も掴めていません。命の数だけ物語があり、そしてその中心もまた、命の数だけあるんです。でも、だからと言って一つの命が失われた程度で、世界は何も変わりません。それが誰かにとってどれだけ大切であろうと、世界は勝手に回り続けます。そう、まるで私のように。命は重い?かけがえ
がない?馬鹿言っちゃいけない。あんなそこら中にゴロゴロ転がってる物の、何が重いものですか。私が良い例ですよ。私が死んで悲しんだのはあなた達家族、たった5人きりです。小さいものでしょ?世界は非情です、悲しみも寂しさも果てしなく産み出されます。そんな中で私達は一体何を見つけたかったのでしょうねぇ?でもね、坊ちゃん。私はあなたと出会えた事がとても、とても嬉しいんですよ。この世は辛いです、えぇ、それは認めます。あなたもそれを知っていたから、私が死んだ時に「ご苦労様」と言ったんでしょう?ですがねぇ、私は産まれた事を後悔してはいない。まだ小さかったあなたが、寒くて凍えた私を抱えて家に持ち帰った。それだけでも嬉しいのに、あなたは私を飼う飼うと言って親御さんに泣きながら頼みこんでくれました。こんなに嬉しい事は今まで幾度となく産まれた中でなかったんですよ。坊ちゃん。私はあなたとこの地獄に居れて幸せでした。それでいいんですよ。意味も無いかもしれない、真の希望も無いかもしれない。時間の中にただ存在するだけかもしれない。生も死も、永遠に繰り返すだけで虚しいだけかもしれない。でも、それでいいん
ですよ。忘れないで下さい。私は幸せだったんです。あなたのおかげで幸せになれた。あなたは私を愛してくれた。それでいいんですよ。だからね、坊ちゃん。もういいなんて言わないで下さいよ。そんな事言ったら悲しいじゃないですか。寂しくても独りでも、辛くても虚しくても。そんな事言わないで下さいよ。それは悲しいじゃないですか。坊ちゃん。だから、私はあなたに一つだけ奇跡を上げます。あなたが考える事を止める事ができなくても、あなたが生きていられるように、一つだけ。だから、坊ちゃん。どうか、どうか、もう…。