母と私のお話。〜思い出の巻〜-3
「お母さんも、お人形さんやるぅ?」
母からの手から逃れるための誘いでした。
そんな私に母は優しく微笑み
「大丈夫よ。私にはあやちゃんがいるもの」
と、私の髪櫛でとかしていました。
なぜか胸に暖かいものが生まれた気がしました。
子どもながらに理解した私はお人形さんから卒業し、母と遊ぶようになりました。
そして、母のことが好きなりましました。
中学生の時、ある写真を見つけるまでは。
今思えば、私に接する母はまるで独り言の様子でした。
今思えば、いきなり髪を伸ばそうという母に疑問を持つべきでした。
その写真。
金髪のロングヘアーな子ども(私)と母が写る写真と共に一生涯封印したい思い出です(-"-;)
『母と宿屋』
それは私が15の頃に、母の発案で温泉に行く(『母と父』参照)途中の電車の乗り換えで起きました。
懐の潤った私と、家族(主に母)の荷物を抱え辛そうな父を率いて母は目的の電車に向かいました。
そして、乗り込もうとした瞬間母が真剣な声で
「あやちゃん。駅弁買い忘れたわね」
「そうだね、母さん」
私は予定通りに返す。
「新幹線と言ったら駅弁。これがなきゃ旅行した意味ないわよね、あやちゃん」
「そうだね、母さん」
はい、演技下手です。
しかし、ここで必要なのは演技力じゃありません。
「じゃぁ、買いましょうね、あやちゃ――」
「ちょちょっと待て。そしたら乗り遅れてしまうぞ」
父の至極当然な反論も想定範囲です。
「大丈夫よ、貴方。買った切符の電車はまだだから」
「えっ、これは――」
驚く父をよそに余裕綽々な母はパンフレットを父に渡し、告げる。
「今日の宿はここよ。いい宿だと思わない?」
「こ、ここは!?」
父が驚くのも無理はないな、と思う。
セレブが行きそうな宿屋なのだから。