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《SOSは僕宛てに》
【少年/少女 恋愛小説】

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《SOSは僕宛てに》-3

「…あの、違ってたら失礼ですけど…もしかしてあなた…村瀬、亮さん…?」
自信なさげに、彼女は僕の名を口にした。
「ああ…そうですけど…あなた、誰でしたっけ。悪いけど覚えてないんで」
僕が困惑しながらそう言うと、彼女は苦笑して
「そっか…分からないか。当然ですよね」
と言った。そして、少し考えるように視線を泳がせると、
「紀崎…紀崎翔子です。ほら、え〜と…村瀬さんが中二の頃に、部活の後輩だった、一年の紀崎ですよ!覚えてませんか?」        紀崎翔子…バスケ部の後輩…。     「ああ…翔子か…思い出した」      僕がそう言うと、翔子は困ったように笑い、「あれ?反応薄いなぁ…ホントに覚えてます?」と言った。   「勿論。学年は違うけど、女子の中じゃ一番仲が良かった」   翔子は何故か複雑そうな表情を浮かべる。
「確か、君が二年に上がる頃転校して行ったんだよね?一年間しか居なかったのに、よく僕の名前を覚えてるね」
「記憶力はね…割りと良いほうなんです」
翔子は照れ臭そうに言った。
「あっ…今日は、いつもの女の人じゃないんですね」
「え…?」
「ほら、新聞配達」
「ああ…いや、そうじゃなくて。今日はって事は、君、いつもこんな早くに起きて、こうしてるの?」
僕が驚きながら言うと、翔子はこくりとうなずいた。
「朝焼け…って言うんですか?この時間が好きなんです。だから、毎朝こうして…」
翔子が言った。
「あっ…。おかしいですか?私。ちょっとずれてます…?」
「いや。分かるよ。僕もこの時間帯、凄く好きだから」
 僕がそう言うと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「村瀬さんも?仲間ですね」
仲間…不思議な響きだった。
「昨日まで配達していた子は、辞めたんだ。だから、今日からは僕が…」
「ああ…そうなんですか。バイトですか?」
「まぁ、そんなとこ。今は大学に通ってるんだ。君は今、高三だよね?」
「…ええ。でも…あまり行ってないんです。…学校」
彼女は寂しそうにそう言って、僕から目を反らした。僕の記憶では、彼女は快活で人見知りしない子だったから…以外だった。
「…そっか…」
僕はうまい言葉が見付からず、押し黙る。励ましたい気持は在ったけど、普段、余り人と話さない僕は。こう言う時に何を言えば良いのか分からない。大体、不登校の理由も分からないのに、どう励ませてと言うのか。
「村瀬さん…明日も来るんですよね?」
気まずい沈黙を破るように、翔子は言った。
「明日も…っていうか、今日の夕刊の配達にも来るよ」
「あっ!そうなんだ。じゃあ…また、こうして待ってますね」
彼女は、世界で唯一の光明を見付けたかのように瞳を輝かせた。こんな僕でも、話し相手になる事で彼女の力になれるのだと思うと、少し、嬉しかった。
「うん。じゃあ…僕は仕事が在るから、もう行くよ」
「はい。頑張って下さい」
「また、夕方にね」
と僕は言って、紀崎家を後にした。
 朝刊の配達業務を終え、寮に戻って朝食を摂った。翔子との会話で時間を使ったせいもあり、やはりいつもの電車には間に合わなかった。満員電車に揺られている時も、大学で講義を聞いている時も、独り、食堂で昼食を摂っている時も、いつも翔子の事が頭の片隅から離れなかった。僕が中二の頃、翔子は中一。当時の彼女は、中学生にしては大人びいていた。身長はその頃から160近くはあったと思う。明るく、朗らかで、清楚な雰囲気も在り、男子バスケ部の間からは密かに注目を集める存在だった。僕が何故彼女と仲が良くなったのかと言うと、当時読んでいた本の趣味が合っていたからだ。ある日、僕が本屋で小説を物色していると、翔子から声をかけられた。僕は当時、ファンタジー小説にこっていて、ライトノベルの並んだ本棚を眺めていた時だった。
『亮さんって…小説とか読む人なんだ』
後ろから唐突に声をかけられ、僕が驚いて振り向くと、制服姿の翔子が立っていた。僕はその言葉に対し、なんと答えたのだろう。良く思い出せない。けど、翔子の言葉だけは、今でもはっきりと思い出す事ができた。
『私は…こう言うのが好きなんですけど。亮さん、読んでみます?この人の本、オススメですよ』
僕は当然、翔子の事は知っていたが、彼女が僕の名前を知っていたのは、意外だった。


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