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《SOSは僕宛てに》
【少年/少女 恋愛小説】

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《SOSは僕宛てに》-25

 動物にも、想い出というのは在るのだろうか。僕には分からない。ただ一つ言える事は、忘れたくても忘れられない想い。忘れたくなくても、いつかは忘れてしまう想い。きっとそれは、人間しか持ち合わせていないのだろう。僕と羽純の関係は、結果的には恋人関係にまで発展した。羽純の中に翔子の面影を求めていた訳じゃない。それは羽純も分かっていた。二人で過ごした二年間は、幸福だった。けれど、羽純が大学に合格して街を離れる事が決まったら、僕たちは別れた。話し合って決めた事だ。お互い、後悔はなかった。羽純と翔子を重ねていた訳じゃないけど、翔子はいつも僕の心の中に居た。二人で居ても、時々彼女の事を想い出した。楽しかった想い出としてではなく、悔いるべき過去として…。それが羽純には辛かったのかもしれない。あるいは、僕に取っても。
『私が側に居る限り、亮がお姉ちゃんの事を笑って想い出せないのなら、離れるしかないのかもね』
二年経ち、また少し大人になった羽純はそう言った。
『…でも約束して。いつか亮が、お姉ちゃんの事を笑って想い出す日が来て、それでも私が好きと言える日が来たら、また、一緒にいてくれるって。私?私は大丈夫よ。いつか言ったでしょ?人を待つのは好きなの。亮が答えをくれるまで、いつまでも待つから…。ね?』
僕は羽純に約束した。そして、一年と半年が過ぎた。翔子が、いや、羽純が僕の心の扉を開くきっかけを与えてくれたお陰で、怜治の他にも友人が出来た。それでも、僕の中で、最高の親友は怜治で在り続けた。
 大学卒業を間近に控え、僕は色々な事を考えた。そして、今この文章を書くに至る。冒頭で述べた事を、もう一度書く。僕は現実に愛を見い出せずに居た。人生が生命の織り成す物語だとしたら、僕の演じる舞台の演目は、悲劇なのかもしれない。そして僕は今、悲劇の舞台に幕を降ろそうと思う。現実の中に、愛を探そうと思う。今までの物語を想い出す。それは悲劇だった。演じている途中は、悲しくて仕方がなかった。けれど、幕が降ろされ、束の間の幕間を迎えた今なら、あの、悲劇のヒロインを、僕は笑って想い返す事ができる。楽しかった想い出として…。そして、次の公演は悲劇ではない。羽純。僕と一緒に舞台に上がってくれるかな。翔子と言う役を演じるのではなく、そのままの君自身で…。
 これから、新たな物語が始まる。ほらプロローグが始まった。
『華の海より目覚めし御使い、束縛を忘れ、星屑の闇と光で、ひた踊る。ほら踊る。時折、此処は美しさ余り、寂漠と成るが、幼き愛は無情にして無常。踊るのみでは寂しくも成る。惨愧も絶望もない、夢の骸を寄り集め、あの刹那が、永劫に成る。ただ蒼い。ただ紅い。そんな愛を、盲目的に信じているよ。君が唄ってる。哀を唄ってる。私は唄う。愛を唄う。とこしえに、とこしえに…』
 何だか哀しげだね。でも大丈夫。僕等なら変えて行ける。どんな世界でも、生きようと思えば、笑いながら歩けるよ。他人を知らなければ、裏切られる事も、互いに傷付け合う事もない。でもその代わり、寂しさを忘れる事もない。そう気が付いたんだ。傷の痛みを悼みにして、君を愛する事。それはきっと、弱さとは違うよね。
 PS:今度の休みには、君を連れて動物園に行こう。悲しげだった彼等も、きっと今なら違って見える。そして最後に心から羽純へ。(誰よりも強く、深く、愛しているよ)

THEEND


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