ヒトナツF-4
「そういうのって、ヘタレなんかじゃないわよ」
「……」
「健ちゃん、かっこよかったよ」
「……っ」
不意に涙がこぼれた。
なんでだよ…なんでお前…笑顔でそんなこと言えるんだよ…
「あたしは帰っちゃうから、代わりに健ちゃんは桜のそばにいて」
「…うっ…ぐっ…うっ」
涙が止まらない。納得のいかない子どものように、ぐずってしまう。
「泣かないの。健ちゃんは、あたしのヒーローだもん」
「ヒー…ロー…?」
「小さい頃の健ちゃんは、あたしのヒーローだったんだよ。健ちゃんはあたしに引っ張られてる記憶しかないかもだけど」
「……」
なんとなく思い出せた。
両親の仕事の関係で、こんな辺鄙な田舎町の祖母の家に預けられた渚は、いつも泣いていて、ひとりぼっちだった。
そんな渚を笑わせたくて、毎日のように外に引っ張り出したんだっけ。
最終的には俺が引っ張り回されてたけど。
「うっ…くっ…」
「出会ったときから今まで、優しくしてくれてありがとう、健ちゃん。」
「渚…俺……」
「健ちゃん、たった一週間だけど、あたしの彼氏になってくれて、たくさん幸せな時間をありがとう」
「…ひく…っ…」
「んーん…このヒトナツの思い出を作ってくれて、ありがとう」
渚は穏やかな笑顔でそう言うと、振り返ってゲートを通過した。
「……渚!」
俺が叫ぶと、渚は足を止めた。
「……桜と……お前の帰り、待ってるから!ありがとう!渚!!」
これが俺の精一杯。
ヘタレなりに頑張れたと思う。
「……うんっ!!」
渚が最後に見せた飛びっきりの笑顔は、小さい頃の、俺を安心させた幼い笑顔にそっくりだった。
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