「命の尊厳」前編-8
「ホント!…でも、2年も経ったから服は全部古いよねぇ」
「だったら、明日にでも買いに行けばいい。お母さんと行ってこい!」
「ホントに!?うわぁ!ありがとう。お父さん」
3人は声を上げて笑った。その笑顔が、家族の辛かった日々を物語っていた。
しかし、今日からは違う。普通の親子に戻れるのだ。
クルマは温かな日差しの中、自宅へと進むのだった。
ー昼過ぎー
家族は自宅に帰り着くと、すぐその足で、ショッピングモールへと買物に出かけた。
2年ぶりに家族で行く買物。
「お母さん!これも美味しそうだよ」
食品売場。カートを押している京子の元に、由貴は目に付いた物を次々と持って来る。
前出のプリンはもとより、ピザやアイス、スナック菓子からカップ麺に至るまで。
さすがの京子も咎めるほどに。
「由貴。いい加減にしなさいよ」
「だってぇ、病院じゃあずっと我慢してたから」
そう言って由貴は舌をペロっと出した。そんな光景を邦夫は目を細めて眺めている。
食料品の買物を終えて、京子が由貴に言った。
「ここの2階はね、服飾品売場なのよ。ついでに服も買いなさい」
途端に由貴の声が弾む。
「いいの!」
「もちろん!」
先を急ぐ由貴を邦夫と京子は追うように、家族で2階にある服飾売場に向かった。
「うわぁ、目移りするなぁ」
様々なメーカーのショップを彷徨うように由貴は歩き回る。
「オレはここで待ってるから」
「エッ?お父さんは一緒に見てくれないの」
由貴は不満気な声を漏らす。
「オレは見たって分からないから、お母さんとゆっくり見て来なさい」
邦夫は通路端にあるベンチに腰掛ける。
それから1時間ほど掛けて、由貴と京子は数軒のショップを見て廻り、ジーンズにスカート、シャツやワンピースを購入した。
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