「命の尊厳」前編-20
「〇〇市にある〇〇総合病院。そこから運ばれた」
ポツリと言った。
由貴は驚いたような表情で加賀谷を見つめた。
「ありがとう…先生…」
静かに答える由貴。
「まともに聞いても何も掴めないよ」
「分かってる。行けば分かるわ」
由貴はそれだけ言うとイスから立ち上がった。
「きっと、この人が導いてくれるわ」
胸に手を当て笑顔を見せる由貴。その顔は加賀谷も初めて見た慈愛に満ちたモノだった。
――−‐‐
「お母さん。ごめんなさい。心配させて」
病院からの帰路。由貴はバスの中で語り掛ける。
京子はそんな娘の肩を抱くと、
「でも、明日から大変ね。〇〇総合病院に行くんでしょう?」
そう言って京子は笑顔を向ける。
由貴は呆気に取られたような表情をすると、
「行っても良いの?」
「仕方ないでしょう。あなた自身の事だから」
「ありがとう!お母さん」
黄昏色の街並み。暖かな色に染まり輝く空。それは由貴の心の中を映すように、温もりに満ちていた。
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…「命の尊厳」前編 完…