「命の尊厳」前編-16
「由貴。今日は行かないの?」
「うん。何だか気分が悪くて…」
「そう…」
早朝。由貴はウォーキングに誘われたが、動悸の事もあり休む事にした。
朝食の準備をする京子の横で、由貴はミルクティーを作り、テーブルに着いた。
砂糖をまったく入れないミルクティーを、まるで昔からそうだったように飲んでいる。
視線は一点を見つめて。
「ねぇ、お母さん」
「なあに」
由貴の声に京子は振り返らず答えた。
「私に心臓くれた人ってどんな人だったのかなぁ」
「…!」
その言葉に京子は何も言えなくなり、振り返ると目を見開いた。
由貴は京子と視線を合わせる事無く、壁を見据えている。
その存在は京子にとって遠いモノに思えた。
「…由貴。アンタ、どうしちゃったの……?」
京子の口からようやく出た言葉。
その言葉に〈はっ〉とした由貴は、京子を見つめて取り繕うように声にする。
「何でもないの。ちょっと思っただけだから」
「ホントに?」
「うん。大丈夫だから」
由貴はごまかすように冷めたミルクティーに口を付けた。
「今日、出掛けていい?」
朝食を終えて。
由貴は京子に尋ねた。
「何処に?」
「街道沿いの喫茶店。中学の友達が久しぶりに会おうよって」
「あら。良かったじゃない」
「有理って娘よ。以前、家にも時々遊びに来てた」
「今は何してるの?」
「短大に通ってるって」
「じゃあ、色々と話してらっしゃいな」
由貴は着ていく服を決めようと、部屋に戻ってクローゼットを開いた。気持ちは桜色のワンピースにしようと決めていた。
だが、いざ現物を見ると、
(…何か違う……)
自分が着ているイメージが湧かない。