「命の尊厳」前編-15
彼女には回廊が呼んでいるように思えた。躊躇無く回廊を上って行く。
螺旋を描きながら、天へと昇るように回廊は続いてた。
どれだけ上がったろうか。
回廊の先が見えてきた。光に溢れるというより仄暗く見える。
由貴は不思議に思う。
これだけ回廊を進んで来たのに、身体は疲れてなく、むしろ軽く感じる。
そして最後の1段を上がり切った。
わずかな踊り場は荒いレンガが敷き詰めてあり、その先には鉄の扉が見える。
扉に手を掛け、思い切り引いた。
「…!」
閃光が目に飛び込んで来た。
その先には、遥か真下の光景が飛び込んで来た。
「いやああぁぁーーっ!!」
由貴は目を覚ました。
「…何…今の夢……」
肩で大きく息をし、蒼白の由貴。彼女は周りを見回す。
「…な、何、ここ…?」
そこは階下、バスルームの前だった。
由貴が起き上がろうとした途端、またも心臓が鼓動を速めた。
(…な…なんで…)
胸を押さえて床にうずくまり、顔を歪める由貴。心臓は別の意思に操られるように鼓動し、彼女の身体は震えだす。
(…ああ…お母さん…お父さん…)
その時、フラッシュバックのように女性の顔が浮かんだ。
肩口まで髪を伸ばし、細い眉に鋭い目、細面に通った鼻筋。
それは由貴が会った事も無い女性だった。
(……誰…なの……)
その途端、動悸は徐々に収まり身体が軽くなっていく。
「…ハァ、ハァ…ハァ…」
深く息をする。身体は汗でびっしょりになっていた。
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