「命の尊厳」前編-12
「…おかしいなぁー」
そう言って再び口をつけて一口飲み込む。が、やはり甘過ぎる。
仕方なく全部ムリヤリ飲んだが、先ほどまでの爽快感は何処かにすっ飛んだ。
「うえぇ…明日から砂糖無しを飲もっと」
由貴の反応を京子は不思議に思ったが、あまり深くは考えなかった。
「そろそろ帰りましょうか?」
ウォーキングを終えてた2人は、自宅へと戻って行った。
ー〇〇市ー
小さな自動車整備工場。
くたびれたツナギ姿の男達が、クルマの底に潜り込んで整備を行っている。
そこに場違いなスーツ姿の2人組がいた。
桜井と高橋だった。
「すると、こちらで修理されたんですね?」
年配のツナギ姿の男が、桜井の質問に答える。
「ええ。3ヶ月ほど前にボンネットにフロントバンパー、グリル一式、フレームの矯正も含めてやりましたよ」
(やっと見つけたか!)
桜井の身体にゾクゾクとしたモノが走る。
「その車種は?」
年配の男は記憶の断片を探るように考えた後、思い出したように答える。
「そうそう!カ〇ーラの営業車だった」
「エッ!それは間違い無いですか?ニッ〇ンじゃなかったですか」
そばにいた高橋が訊き返した。
だが、年配の男は首を横に振ると、
「いや、間違い無い。あれはカ〇ーラだった」
男の言葉に落胆の色を見せる高橋。対して桜井は、丁寧にお礼を言ってその場を立ち去った。
ここ3ヶ月。彼らは野上諒子轢き逃げの容疑者を追っていた。
最初の1ヶ月は県警あげての合同捜査班を作って調べていたが、その後は桜井と高橋を残して捜査班は縮小となった。
仕方ない事だった。事件は日々、起きているのに長い期間1箇所にマンパワーを集中させるわけにいかない。
分かっているのは、ブレーキ跡、と剥がれた塗料片からニッ〇ンの小型乗用車で色はシルバーという事だけだった。
それでも桜井と高橋は、ここ3ヶ月で、ほぼ県下の自動車修理工場を調べ尽していた。
重い足取りでクルマに戻る桜井達。