「命の尊厳」前編-10
一方、リビングでは邦夫と京子がビールでささやかな祝杯を上げていた。
「よく頑張ってくれたな」
邦夫はグラスを合わせて微笑んだ。京子も笑顔を向ける。
「あの娘が健康な身体になれるのなら、私の事なんて何でも無いわ」
「これから、あの娘が結婚して、子供が出来れば……」
「…あなた……」
父親としての想い。だが、それは現実を考えれば厳しい物だった。
ー朝ー
「お父さん。行って来ます」
「ああ、気をつけてな」
母親の京子と共に朝早く出掛ける由貴。それを見送る父親の邦夫。
今日は病院の検診日だ。
由貴は春らしい桜色のワンピースを着ていた。服に合わせるように淡い化粧を施して。
彼女が退院して2週間が過ぎていた。
「じゃあ、施術跡を見せて」
加賀谷の言葉に、由貴は京子に手伝ってもらいながら、ワンピースを腰まで脱いで下着を外す。
胸元が露になる。
由貴は恥ずかしさに顔を逸ける。一方、加賀谷は気にした様子も無く傷跡の状態を確認すると、カルテに書き込んだ。
由貴は顔だけで無く、胸元までも赤く染めている。
「はい。いいですよ。服を着て下さい」
言葉に素早く反応して由貴は服を戻す。
加賀谷は所見を由貴達に伝える。
「先週の血液検査と今日の状態から問題は無いですね」
加賀谷の言葉に京子は安堵の表情を浮かべた。
「由貴ちゃん自身で違和感は無い?」
「…別に…無いですね」
「そう。じゃあ、来週まで様子を見て、問題無ければ再来週に少し薬を変えてみようか?」
加賀谷の言葉に由貴の表情が曇った。
「変えるって…強い薬にですか?」
「逆だよ。薬の量を減らすのさ。元々、ドナーとの適合性を調べて移植を行ったんだ。だから、免疫抑制剤を少し弱いヤツに変えて様子を見ようかと思ってね」
由貴は安堵の表情を見せる。