Kalaidoscope Otoutokun-3
「なにやってるの? 環から離れて」
慌てて俺らの間に入ったりしない。驚いて持っていたスーパーのビニール袋を床に落としたりもしない。代わりに、ものすごく冷たい声と目。
「こいつをかばうの? お前ら、血繋がってないらしいじゃん。俺初耳なんだけど」
「環のこと、弟って紹介したこともなかったけどね」
「……話になんね。俺帰るわ」
「うん、そうして」
「追い掛けてくる?」
「追い掛けない」
そう言って、天梨は本当に家の中に入ってしまった。
「冷てぇ女」
舜祐もカンカンと音を立てて、マンションの階段を降りていく。
キッチンで、天梨が買ってきた野菜を冷蔵庫に詰めていた。
「……ごめん」
俺は小さな声で謝る。天梨は手を止めずに「うん」とだけ言った。理由は聞かない。
「あいつ、どうすんの?」
「別れるんじゃない? どっちにしても、あなたには関係ないことだよ」
もうとりつく島もない。相変わらずこっちも見ない。
振り向かせたい。俺を見て。
俺ははやくも最後の切り札を使う。
「俺、天梨のこと好きなんだけど」
天梨の手がやっと止まった。切り札なんかじゃない、これが俺の気持ちのすべてだ。
ゆっくりと振り返って、俺を睨む。
「……本気で言ってるの? それ」
「うん」
「彼女は?」
「別れる」
「別れなくていいよ」
ぴしゃりと言われた。
「あの子、すごい環のこと好きでしょ。かわいそうだよ。それに、」
一回言葉を切る。
「それに、環とあたしがどうにかなるなんてことは絶対ないから、別れないで」
お願いされちゃいました。絶望を通り越して、もういっそ笑いたい。
その日から、今度は俺が天梨を避けて、家になかなか帰らない。そうしているうちに、夏休みが終わった。