秋と春か夏か冬〜16話『みんなでお泊まり温泉旅行・前編』〜-4
「あっ、そろそろ自分の席に戻らなきゃ…じゃぁ!弁当ありがとなー」
……逃げだった。
そして恭介が帰ってしまったあとに…
「アキ……意地悪。俺の方がヘタなのわかってるくせに」
愁がほっぺを膨らませながら抗議する。
「いえ…恭介様は本当にどちらも同じくらいおいしかったんだと思いますよ♪♪」
「じゃぁ、なおさら意地悪だ…」
「ふふ♪恭介様はお優しい方ですからね。選ばないことをわかっていて質問したわたくしは……確かに意地悪でした」
「まぁ…確かに優しいやつだからな♪」
「でも恭介様が恋をなさる時、両方なんて選択肢はありません。その時がきたら恭介様は誰を…」
少し暗い顔の亜季。だがすぐに明るくなり、閃いたとばかりに両手をパンっと叩く。
「シュウちゃん、これからは料理も少しは慣れていきましょうね♪」
「え〜めんどくさいよ」
「でも料理が上手な方が恭介様もきっと喜んでくれますよ?」
「……じゃぁ少しだけなら……ってちがぁーう!お、俺は痴漢男のために作るんじゃないからな!出来た方が…その…色々と便利だから!」
「くす♪はいはい♪」
微笑ましい双子であった。だがまだ恭介は痴漢男と呼ばれていたのだった……。
……えっ?奏樹はどうしたって?緊張のしすぎで、とっくに意識が飛んでいます(笑)
――1日目・夕方――
あれから列車を降り、バスにのり30分。朝方に出発した(らしい)のに、旅館についたのは3時すぎだった。
雰囲気のある、良い感じの旅館だった。山奥の名所と言ったところだろう。
しかも今回は、俺たちしか利用客がいないらしいので、実質貸し切りだ。
とりあえず夕飯ができるまで自由時間。だがみんな朝早く起きていたので疲れているのだろう。
俺は元気なので、1人で旅館の裏にある山道を散歩に行くことにした。
かなり北の方に来たので、夏が近いというのにかなり肌寒い…。しかも山道は雪がまだ残っていた。
(雪か……そういえば雪を見たのはあの時以来だな…)
あの時とは美雪に別れを告げた日。
恭介は上着のポケットに手を入れながら歩く。少し物思いにふけながら…。
(美雪…おまえは今……どうしてる?元気にやっているか?)
つい考えてしまう。未練という感情ではない。冬白美雪と関わった1人の人間として心配をする恭介。
(俺の周りは最近騒がしくて困ってるよ。まぁ…退屈しないけどな)
そう思い苦笑いする。すると…
「恭介〜!」
特に賑やかなヤツ…夏輝が走ってきた。