学園の社長〜社長の連盟騒動〜-8
「ほう。地上にこんな美しいところがあるとはな。ここから寮にくればよかったわい。ヤマツツジなんて見たのは何年ぶりか。ここ数年間は海草ばかりしか見てないからな」
「モズクやワカメくらいしか海の中になんてないですからね」
「海をバカにするでない。こんな場所とは比べ物にならんくらいの光景が待ってるぞ」
少しむすっとした態度で山崎は歩いていき、自然公園を抜けたのだった。自然公園を抜けるとそこはちょっとした街並ができており、海産物などが売っている店の他に海の近くの趣のある喫茶店などが絶妙な配置で並んでおり、隠れたスポットとなっている場所だ。ここもウチの学園の生徒たちの骨休めの場として利用 されることを滝沢から聞いたことがある。
「このあたりは静かでいいな。なにより波の音も聞こえるし、心が落ち着くわい」
「そりゃあ海の近くですから」
ここはグリーンビーチと呼ばれる 海の色が本当に緑色なのではなく、海の近くにある自然に緑が多いのでこの名前がついたとか。本来では鹿児島や沖縄に生えるといわれる代表的な湿地に生える植物のマングローブ、さらには砂浜に生える草のハマヒルガオ、ツルナとよばれる海浜植物がたくさん他の浜に比べて豊富 にある。しかし、浜があまり広くないために観光客向けではなく、人もほとんどないのだ。そのために浜はいつも静かに波音を立てるだけなのだ。
なぜこんなにこのグリーンビーチと呼ばれる浜に詳しいのかというと、決して植物学者を目指しているわけではなく、学園に転入したばかりのころの四月、生物教師に転入生実習と称されてしつこく教えられたからである。
「で、ここからどうやって潜水連盟の支部に もしかしてこっから海の中に潜るつもりですか?」
俺は一息つくと山崎に尋ねた。彼は潮風の心地よさに浸ってぐっと背伸びをしている。
「いかにも」
俺は苦笑した。海に入って竜宮城でも探そうっていうのかよこのオッサンは。
「でもどうします? 今日俺は海パンもって来てませんが」
「そんなものはいらん。もう来るころだろうな」
腕時計をチラチラ見ている。
「お、来たぞ!」
山崎は海面を見てそう叫んだ。
見ると、さっきまでおだやかだった海のゆれが大きくなっていく。ゆれはだんだんと大きな波を作っていき、静かな海を荒立った。
やがてここからにある波の中心から黒く丸い物体の一部が顔を出した。わずかしかその姿を海上に見えないが、その形状からある乗り物だということが推測できる。
「これは…もしかして潜水艦ですか」
俺は山崎に聞いた。自分の心臓が高鳴っていくのを感じる。
「いかにも」
「これで支部まで連れてってやる。近くまでボートが迎えにくる」
上部の一部分だけ姿を見せている潜水艦のほうを見ると、その近くから別の真珠色をした丸い球体が海中から浮いてきてこっちに漂ってくる。
「これがボート?」
ずいぶんと前衛的な形をしたボートだ。
「これは潜水艦に付属しているものだ。こういう形じゃないと水が入ってきて海の中から出せないだろうが。」
「なんだか窮屈ですね」
「なに、潜水艦に届くまでの辛抱さ。このボートと潜水艦はワイヤーで連結していて、再び潜水艦の中に収納されるのだ。これがなくては浜からの上陸ができないんでな」
確かに砂浜付近は水深があまりないため潜水艦は上陸しにくい。上陸したとしても巨大なものだと非常に人の目を引いて厄介なのだろう。それで浜から遠方に艦を止めておき、泳がなくてもいいようにボートまで用意していたのだ。
しばらくボートに揺られているうちに、ピーピーピーと耳鳴りがするような電子音が何度もボートの中に響いた。
「よし、もうそろそろ頃合だろう。今入り口が開くからお前さんはそこから中に入ってくれ」
山崎がそういうと、ボートにある扉の錠を開ける。
いよいよ潜水艦の中に入るのだ。俺は思わず戦慄する。
思えばなんでこんなことになったのだろう。錦田のいっていた奇怪で非現実的な話は本当だったのだ。学園に転入して出会ってからおかしな奴だとは思ったが、本当にあの目立たないクラスメイトは只者ではないのかもしれない。そんなことを考えると気が遠くなりそうだったので、目の前の潜水艦に集中しようと努めた 。