学園の社長〜社長の連盟騒動〜-16
「通信機だ。連絡が入ったんだ」
「誰からだよ」
「恐らく船長だろう。助けに来てくれるかもしれない」
助けがくると聞いて、俺は救われたような気分になった。真っ先に操縦室に向かった。
そして二人とも操縦室に入ると、錦田が操縦席にあった通信機をとってマイクにしゃべりかけた。
「船長、船長か? 潜水艦の操縦に不備があり、立ち往生して困っている。すぐに我々の救助に来てほしい」
錦田が落ち着いた声でそういうと、通信機のスピーカーから山崎の声がした。
『聞き忘れたことがあったから連絡したのだ。君は本当に連盟支部の幹部になるつもりはないのかね。君たちの救助はそれからだ』
そんな山崎の声は、非常にのんびりした口調だった。この事態をなんとも思っていないのだろうか。しかし、冷静な錦田は再びはっきりと通信機のマイクにいった。
「あなたの用意した潜水艦でこうなったのだ。我々の救助に向かうのが最優先ではないか。それに船長、私は連盟に入る気はないとすでにいったはずだ。一刻も早い救助を求める」
『そうか。それはまことに残念なことだ。すまないが君たちを救ってやれない』
その言葉を最後に通信が途切れてしまった。そして俺の中で湧き出てきた希望が絶望へと変化したのだった。
「すまないってふざんけんなあのクソジジイ! 俺たちをここに閉じ込めて殺す気かよ」
「山崎とはそういう男だ、私が中学生のときに会ってから変わってないようだな」
錦田はあきれたようにいった。あきれている場合じゃねえだろうが。錦田が連盟に入らない限り、俺たちはこのまま山崎に見殺しにされる。
するとまた通信が復活しスピーカーから山崎の声が聞こえた。
『あ、そうそう。錦田君の気が変わって入る気になってくれればこの通信機を通していってくれ、いつでも受け入れよう』
通信機のスピーカーは再びなんにもいわなくなった。
俺は通信機を通して山崎に助けろ助けろと罵声混じりに怒鳴ったが一向に返事がない。無視されているようだ。錦田の入会宣言以外はお断りってわけか。
「もしかして山崎は昨日のことを恨んで俺たちを海の藻屑にしようとしているのか?」
「いや、そこまではないだろう」
「じゃあなんでこんなことをしてまでお前を誘うんだよ」
「山崎船長の本当の目的は私の親から大金を引き出させることだ。じゃなきゃ私などを引き入れようとはしないからな」
「お前の親? 確か大会社の女社長ってお前から聞いたが……」
「そうだよ。船長は私の母親のことをよく知っている。そして私を利用して大金を出させ、潜水連盟からの独立を図っているらしいのだ。そのためには別の場所にあのような建物を作って何台かの潜水艦が必要となる。そして現在はその費用をしていると研究員の一人に話を聞いた。船長は日ごろから連盟に対するグチを 周囲に吐いていたというのだ。しかし私はあの船長がどうなろうとも関係のない話だし、潜水連盟自体に興味がわかない。そもそも山崎船長自身に好感が持てない」
「好感が持てない?」
「なんというか彼は自己顕示欲が強く、さらに腹黒いのだ。私が彼と知り合ったのは彼が支部長になってからなのだが、そのときは上司の評判もよく昇進が周りより早かったらしいのだ。その日から船長の悪いところがでてきたというか、部下たちとはあまりうまくいっていないらしい。最近のことだが船長の受け持つ支 部が不祥事を起こしたらしく、近いうちに人事異動があって船長が降格させられる可能性があるらしい。船長の私に対する強引さがあまりにも不自然に思えたので、支部内で情報を集めてきたらそれらのことがわかったのだ」
自己顕示欲が強い、か。確かに支部長室で聞いた山崎の話は自分を持ち上げる内容ばかりだった。その口調には鼻につくものだった。山崎が潜水連盟に不満を持っているなんで最初俺を連盟に誘ったりしたんだろう。友人である俺を引き込んでおいて本命の錦田を入れる腹があったのだろうか、それともただの親切心か らか。