学園の社長〜社長の連盟騒動〜-13
「悪いが船長の誘いに応じるわけにはいかない」
「なに? なにか不満でもあるかな」
「私は今の生活で十分満足している。契約を行うことで今の生活が壊れることは見えている。これは望ましいことではない」
「しかしその代わりに素晴らしい日常を送れることを我輩が保障する。頼む、これは我輩からのお願いだ」
「私にはこれから先のプランというものがある。そればかりはいくら頼まれても承諾しかねる依頼だ」
錦田は無表情ではっきりといった。高校生とは思えないとてもえらそうな口調だった。山崎はそれを聞くと、しばし黙りこくり、苦虫をつぶしたような顔つきになった。
「そうか。それでは致し方ない。別の奴をあたってみるとするよ。」
「そうしてくれると助かる。さて、私たちはそろそろ学園の寮に帰らなくてはならないな」
錦田がそういったので俺は時計を見た。すでに午後の六時を過ぎている。もう夕日が落ちかけている時間だ。あまりのんびりしていたら寮の夕食に間に合わないだろう。
「むむ、君たちはもう帰ってしまうのか? そうだ、ここに泊まっていかないか? この建物には会員用のホテルもあるが」
一泊していくと学園に潜水艦から行かねばならず、遅刻しかねないだろう、というわけで泊まらせてもらうわけにはいかない。
「いえ、俺らは明日授業があるんでもうそろそろ帰ります」
「そうかね。じゃあ君たちの帰りの潜水艦を用意しておくよ。三十分くらいかかるが」
「三十分か。それならなんとか間に合いそうだ。その間ちょっとここらへんを見学していいか?」
俺は錦田に頼んだ。それに錦田も賛同した。
「それなら三十分後に入り口で会おう。私もちょっと見ておきたいところがあるからね」
そういって錦田は支部長室をそそくさと出て行った。山崎も「それじゃ自由に見学していってくれ」といって足早に支部長室を出て行く。どちらもせっかちな奴らだ。
俺は海底の建物内をしばらく見物して歩くことにした。支部長室を出て廊下を渡り、さっきから気になっていた購買部へと足を運んだ。
購買部はコンビニくらいの広さで、食品類、機器類、雑貨類などと種類ごとに区別されている棚の上に、インスタント食品や、筆記用具のような馴染み深いものから、地上では見たことのない食品、道具まで多種多様な製品が陳列されていた。中にはどんな用途に使うのか分からない機器なども置いてあり、商品の札をみ ても聞いたことのない製品名らしきカタカナしか記されておらずにさっぱりだった。
時間は三〇分しかなかったので俺は購買を出た。
その後は食堂、展示室とまわった。食堂は四角のテーブルがいくつもある普通の場所で、人が一人も居らず、今の時間は営業もしてないみたいだ。料理を受け取る窓口のところに張ってあったメニュー表を見てみると、海底らしく、マグロの鎌焼き、あんこう鍋、タイを使ったシェフ特選コース、などその辺の食堂とは 一線を画したメニューがそろっていた。
一方の展示室のほうはというと、予想外のものが多数だった。海に関するものがおいてあるのだと思ったが、どの展示品も海とは無関係の物だった。西洋画の模写や、人間の形に作られた彫刻などの美術品や、戦中のころのラジオなどのアンティーク品、さらに意外なことにファミコンソフトなどのレトロゲームも展示さ れてある。これは支部長の趣味なのだろう。しかしさっきから気になっていたのだが食堂にしても展示室にしてもそのほかの場所にしても広い建物の割に、ほとんど人に出くわさなかった。
展示室は面白かったが、もう時間が来ているのでいかなくてはならない。俺は展示室を出て潜水艦のある方向に向かった。
俺は迷いながらも派手な装飾が施された玄関口に着いた。そこにはすでに錦田が待っていた。
「わりぃわりぃ。遅れたな」
「いや、私も先ほど来たところだ」
「ありゃ、山崎船長がまだ来てないじゃねーか」
山崎はそこにいなかった。潜水艦の整備に手こずっているのだろうか。
「いや、先ほど船長は奥の部屋に帰って行ったよ。帰りの潜水艦が準備できたので勝手に乗っていっていいそうだ」
「そうか。さよならもいわないなんてさっぱりした人だな」
そういうわけで俺と錦田は建物の出口の重い引き戸を開ける。目の前に潜水艦の入り口が現れる。俺は入り口を開けて中に入る。