冷たい情愛(番外編)唯一の恋人へ-1
ワイシャツを着てネクタイを結ぶ。
鏡の前に立つ。
教師…たった一年間だけの。
社会見学みたいなもんだな…小学生みたいに。
俺は今年、恩人のツテで関東の私立高校の教師になった。
まあ…見張られているようなものだ。
金を出すだけでは信用できず、スパイまで送り込むような真似しやがって。
俺は教師初日の朝から、ささぐれた事を思った。
それでも…
この一年間は最後の自分だけの人生だと思うと、やれるべきことはやってやろうとも思った。
俺が働く高校は、地元では相当有名な高校らしい。
寮も兼ね備えており、地方からも進学者があると聞いていた。
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始業式…入学式…
桜は散りかけていたが、新しい季節の匂いがする。
まだ幼い容姿を残した男女の高校生…真新しい制服。
皆、新しい生活に希望溢れるといった顔をしている。
職員室の自分の場所はどうも居心地が悪かった。
数学教師のための準備室という名の物置があり、俺は放課後の殆どをそこで過ごし始めた。
同期入職の山本という男と仲良くなったが、新人教師同士の愚痴など職員室で話せる訳もない。
コンコン…
ドアをノックする音がした。
ここに人が来るのは珍しい。
鍵を開けドアを開けた。
そこには、カバンを抱えた女子生徒が立っていた。
「1-5の設楽です。どうしても分からない問題があって…教えて欲しいんです」
設楽紘子…
俺が数学を教えている生徒だった。
授業中は一切口を開かず黙々と机に向かう、態度の真面目な生徒だ。
小テストの作成も終わり暇だったので…俺はこの生徒を招きいれ指導し始めた。
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