赤提灯-2
「はあ、これで頑張れそう」
「もう遅いのに、まだ何かあるんですか」
「やり残したことがあるのよ」
「大変だね」
落ち着いた口調が聞いていて気持ち良い。
なんだか、居心地が良い。
「お父さんもこんな気持ちだったのかしら」
「お父さん?」
おじさんがさい箸を止めた。
「父が毎日のように通っていたのよ。いつまでも帰らないからいつも迎えに行ったの」
「へえ」
そう、困ったように笑う父と。
時々おでんをくれたおじさんと。
迎えに行くのは嫌じゃなかった私…。
あの赤提灯の下で笑うのは大好きだった。
「ふう」
気付けば、山になっていたおでんはすっかり無くなっていた。
そろそろ帰らないと時間がない。
「それじゃおじさん、ありがとう。いくら?」
「千五百円いただきます」
「えっ」
具の表を見て頭の中で電卓をならしてみたけれど、答えが違う。いくら計算の苦手な電卓でも、このくらいの足し算ならできる…と思う。
「ちょっと安いんじゃ…」
遠慮がちに尋ねると、おじさんはニッコリ笑って箸を構えた。
「もしかしたら昔のお得意さんかもしれないからね。サービス割引だよ。頑張って」
「…ありがとう」
千五百円をぴったり払って、屋台を後にした。
家までの帰り道、私は鼻歌を歌いながらぶらぶら歩いて帰った。
また寄ろう。
私の胸に、あの柔らかい赤提灯の光が灯ったような気がした。