地鶏の卵-1
彼は早起き。私が目を覚ますと、なぜか彼が先に起きていて私の顔を笑顔で見守っているもの。
「おっ、美味しそうだなあ。すぐに食べてしまいたいよ」
いやだ、朝から何言ってるのよ。もう、恥ずかしいわね。けれどそんな大胆なところも彼の魅力の一つだわ。
「もう少し濃いほうがいいかい?」
あら、何の話?
すると彼は怪しげな小瓶を手にとり、私に二、三回振り掛けた。そして長細い棒を二本、片手で器用に扱うの。
もう、そんな無理矢理にしないでよ。あっ、乱暴に掻き回さないで。
「うん、いい色と泡立ちだ」
そう嬉しそうに言うと私は焼けそうに熱い黒い板の上へ投げられた。ああ、何処だか知らないけれど体が火照っちゃう。
…ちょっと、熱すぎるんじゃないの。体を温めるなら十分よ。やっ、ちょっとマジ熱い!何、何なの?
「ねえ、まだなの?」
「はは、もうすぐだよ。待っていなさい」
彼と彼を急かす若い女の声。ああ、今わかったわ。そういうことなのね。
熱い、熱いわ。あなたのこと、忘れない…。
美味しくしてちょうだい…。
「ほうら出来た。パパ特製目玉焼きだよ」
「わーい!ママ、できたよー」
「はいはい。あら、美味しそうじゃない」
「何たって宮崎の地鶏卵だからね」