十分でわかる日本文化-1
「日本語って難しい」
「そうだな」
二時限目終了を告げるチャイムが鳴り終わった。さあ、十分間の休憩時間が始まる。
腹が減ったので早弁をしようと思ったのだが、チャイムが鳴った瞬間に首に手がかかり俺は後ろに顔をむけざるをえなかった。渋々相手に体を向けると、似合わない真剣な面を構えた友がいた。
「何か反応無いの?君の唯一無二の友達の僕が考えてるのに」
「特には…おい、手離せ」
じわじわ力がこもってくるので危険を感じて促すと、奴は「ごめん、反射的に」と呟いてまるで惜しむように手を離した。その顔は些か悲しそうだ。
「今更だな。現国の点数悪かったのか」
「日本語だけ文字の使い分けがあって言い方が地位によって変わるんだよね。文法も一杯だし」
そう言って彼は俺の前に一枚の答案用紙を差し出した。うわ、俺には公表する勇気がねえ…。
「英語だってそうだろ?」
「英語は万国共通語だよ、でも内弁慶な日本語は日本でしか通じない」
「…島国だからな」
「イギリスだって島国だよ」「ヨーロッパにあるだろ」
頬を膨らませて黙りはじめた。反論が出てこないらしい。この点数をとれば日本語否定しだすもんなのか。
「だいたい日本もフレンドリーになればいいのに。こんな堅苦しい文化ばかり作ってさ」
日本を否定し始めたぞこいつ。日本人の風上にもおけん。
「とりあえず千利休や松尾芭蕉に謝ってろ」
「別にその人達を否定するわけじゃないよ。ただ、開放的になればいいのにって話」
否定…してないのか。これは。
「そんな頭から否定するなよ。日本にはいいところ沢山あるだろ」
「例えば?」
「…某スナック棒」
あ、ちょっとふざけたか。えーと何があるかなと
「…だった」
「え?」
「そうだった!ごめん、僕日本人の風上にも置けなくなるところだったよ!駄菓子は輝かしい日本の文化だよねっ」
目を輝かせらんらんと語る彼。どうやら日本の文化に満足できたらしい。俺は日本文化の汚名返上に成功できたのだろうか。
「よかったな」
「うん、僕は君のおかげで新しい分野を開拓できたよ…あ」
チャイムが鳴る。ばたばたと教室に戻り席につく生徒が増えたので、俺も前を向いた。
後ろから鼻歌が聞こえた。
五十分、頑張ろう。