梓と健の秘密の関係【始まりは夕陽が見ていた】-1
梓は四階トイレの一番奥の個室にいた。
煙草を吹かしながら、大学時代からの友人とメールのやりとり。
今日は19時から大手企業に勤める友人の紹介でコンパの予定だ。
ここ半年男性との付き合いはなく、そろそろ人肌恋しくなってきた矢先の誘いだった。
だが試験問題作成に思いがけず時間を取られ、現地に直行しなければならなくなった。
だから今日は身体のラインが出る黒のミニタイトのスーツに網タイツと、いつもよりセクシーな服装での出勤となった。
普段学校にいる間は常に眼鏡を掛けていて、一見生真面目そうな梓だが、今日はいつもと雰囲気が違っていたかもしれない。
今は16時。
我が校は、部活にはあまり力を入れていない進学校で、テスト前のこの時期にはあまり生徒も残っていない。
しかも四階のトイレにわざわざ人がやって来る事は滅多にない。
梓は今日もいつもの様に、仕事の合間に男子トイレで煙草を吸っていた。
そこへ誰かが口笛を吹きながら入ってきた。
「やっば…!」
慌てて煙草の火を消す。
どうやら生徒らしき男が洗面台の鏡で身なりを整えているらしい。
少年は煙草の匂いに気付き、こちらに近づいてきた。
梓は誰も来る筈がないと鍵もドアも開け放していた。
「誰かいるの?」
覗き込んだ少年はビックリする程の美少年だった。
長身に細身の少年は、なぜか梓には覚えがなかった。(こんなカワイイ子、一度見たら絶対忘れないのに何でだろ…)
「なんだ、梓ちゃんか。」
しかも少年は梓を知っているようだ。
「え…?ごめん、誰?」
「あぁ、髪型違うからね。健(たける)だよ。ホラ。」
少年は髪を七三に分け、手で作った輪っかを眼鏡に見立てた。
「えっ?!片山健くん?!」
分からないのも無理はない。
普段はどちらかと云えば地味な方で目立たないタイプの健が、実はこんなにもイケメンだったとは思いもしなかった。