傾城のごとくU終編-4
「…先生。どうですか?」
血液検査の結果がパソコンに映し出される。先生は無言のまま画面を見つめている。
「チコは病気なんですか?」
「……うむ、風邪だな」
先生はゆっくりと私を見ると、にっこりと笑った。
「…な、なぁーんだ!先生が深刻な顔をしてるから病気かと思った」
「コラコラ。風邪も立派な病気だぞ。…だから3日間程入院が必要だよ」
「エッ、入院…ですか?」
「ああ、このコは少し内臓がやられてるからね。ここなら24時間診てやれる」
父が私の肩をポンッと叩いた。
「分りました。よろしくお願いします!私、毎日会いに来ます」
先生は少し困った顔を見せた。
「……それは、ちょっと遠慮してくれないか。猫の風邪もウイルス性でね。もし君が見舞いに来てウイルスを外にまき散らす事になると、他の健康な猫に感染してしまうからな…」
話を聞いた父が突然、頭を下げた。
「…分りました。先生。チコの事よろしくお願いします。あれは、家族ですから…」
私はびっくりした。普段、チコの事をあまり気にしない父が、そんな事を言うとは思いもしなかった。
病院を出て車に乗り込む。
「お父さん。ありがと…」
父はそれには応えず、車を走らせた。
自宅に帰り着いたのは10時を少し過ぎていた。母と姉に病院での出来事を告げた。
すると〈なぁ〜んだ!心配して損した!〉と拍子抜けした顔を見せる。
母の〈さっ!もう寝なさい〉と言う言葉に私は自室に戻り、パジャマに着替えるとベッドに潜り込んだ。
なんだか眠つけない。今朝からの出来事を思いだしながら、私は不安な気持ちでいっぱいになる。
〈ルルルルルッ…〉
ようやく眠りについた中、電話が鳴ったような気がした。
(エッ、今、何時?)
枕元の目覚まし時計を見る。まだ6時半。昨日はチコの事があったせいか、気が昂ぶって夜中に何度も目が覚めた。そして今も。
部屋のカーテンを開ける。朝日が出たばかりなのか、そらが白らんで光の帯がいく本も空を飾っていた。
ふんんんーーっ!
唸りながら伸びをする。
(…寒い…)
足が冷たいのでタンスから靴下を取り出し履いた。階段を降りて台所に行くと母が居た。ちょうど起きたばかりみたいだ。