傾城のごとくⅡ終編-3
「今日、昼間にチコを洗ったの。だから濡れても良い格好なのよ」
私はゴハンを一口食べて、
「アッ！チコにゴハンあげなきゃ！」
夕食をそのままに、冷蔵庫から凍ったエビを小さな鍋に入れて火に掛ける。
チコの餌入れを見る。ドライフードはわずかに残っていたが、水がほとんど入っていない。
ドライフードと水を入れ替えて、いつもの場所に置いた。ちょうど鍋が茹で上がりを知らせる。私は火を止めて鍋を降ろし、茹であがった海老をカップに茹で汁ごと入れた。チコはエビも好きだが、茹で汁も好きなのだ。
その時、私は不思議に思った。
アレ？いつもなら、海老を茹でてる最中に鍋の近くに寄って来て催促するはずなのに……
「チコーッ！チコーッ！」
私はチコを捜しに家の中を見て回る。居間、風呂場、座敷を覗く。
(居た！)
「なんでこんな寒い所にいるのよ！さっ、アッチの暖ったかい所に行こう」
チコは座敷の縁側で丸くなり、外を眺めていた。昼間の暖かさは無くなり、日は落ちている。真っ暗な縁側でチコは何を見てたんだろう。
*****
「アッ！吐いた！」
母が台所で叫ぶ！居間でテレビを見ていた私は台所へ飛んだ。
片づけようとする母の横で、チコは海老を食べている。
私はびっくりしたのを抑えるようにため息を吐いた。
「な～んだ、脅かさないでよ！毛を吐いたんでしょう？」
「何も混じってないわよ。黄色い液だから胃液じゃないの？」
「エッ！？だって…今、海老食べて…」
私はチコを見る。海老が入ったカップに顔を突っ込んでいるが、海老ではなく汁を飲んでいた。
背中に冷たいモノが走る。
「お母さん！私、病院に行ってくる！」
「でも今日、土曜日でしょう。休みじゃないの？」
「大丈夫！あそこの病院、夜9時まで開いてるの」
私は服を着替えると、病院に電話した。〈すぐに連れて来なさい〉との事。
「千秋！お父さんが送ってくれるって」
キャリーバックを持ってチコを捜す。今度は居間で丸くなっていた。中に入れる。
やはり変だ。
いつもなら抵抗するのに、そんな素振りも見せない。
私は父の助手席に乗ると、キャリーバックをヒザ上に置いた。車が動き出す。病院へと。
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