邪魔な美しさ-1
もし、そこのあなた。そうそう、あなた様ですよ。少しお時間よろしいですか?違いますよ、勧誘ではございませんのでご安心下さい。
はあ、私どこぞの庶民でございまして、よろしければ一つ話を聞いていただけませんか?はい。ああ、ありがとうございます。それではご拝聴願います。
「邪魔な美しさ」
昔々のお話です。
あるところにある村がありました。土地は小さく人も多くはありません。しかし争いのない平和な村でありました。
その小さな村に、もう直に十一になる娘がおりました。見目麗しく性格の良い娘でしたが、家は貧しく、十分な生活はできておりませんでした。
ある夜、娘の母は涙を堪えて娘に切り出しました。
「おまえは十一になる。どうか、家のために金持ちの旦那様のところへ行ってちょうだい」
「そんな…」
娘は愕然としました。
この村では、年頃の女の子どもは少々有名な小金持ちのところへ売られる決まりがありました。
もちろん娘は涙を流し、泣き叫びました。
「私はやっと十一になったばかりです。もう母様や父様の元を引き離され、名前も知らない旦那様のところで、何年も…!」
娘の言葉はもう言葉にもなりません。
「本当にすまない。私達を許しておくれ」
母も父も、頭を床につけて必死に謝りました。
普通は十五やそこらで売られるものが、娘が美しかったために旦那に催促をされたのです。娘はそれを知りませんでした。両親はただただ泣きながら謝り続けました。それでも、娘の怒りと悲しみが解けることはありませんでした。
しかし足掻いても約束の日はずんずんと近付き、ついに娘は手を縄でしばられ他の娘と共に屋敷へ向かいました。
「母様、父様、助けてください。お願いします。助けてください…」
娘は最後まで泣きながら、両親に手を伸ばしました。しかしその手は看守に払われ、母と父に届くことはありませんでした。
娘は泣きながら歩きます。
母はついに顔を背け、父はいつまでも娘の背を見送りました。
「わしがおまえらの主人じゃ。しっかり奉公せえよ?」
娘は泣きたくなりました。せめてと、旦那の人間性に期待をしましたが、思いは無惨にも散ってしまいました。旦那は金で全てが片付くと思っているいやらしい顔をした中年の男だったのです。
男は娘達をみると、にやりと笑いました。
それからの娘の毎日はまるで地獄のようで、話すのも躊躇われます。朝から晩まで働かされ、
「ちょいと綺麗だからといって、調子に乗るんじゃないよ!」
時には年上の娘のひがみからくる虐め、旦那のいやらしい言動など、娘はどんどんボロボロになっていきました。
来る日も涙を流し、数回はすがる思いで手紙も書きましたが、返事がくることはありませんでした。
ある日、同じ部屋の掃除をしていた女が笑いながら娘に話しかけました。