邪魔な美しさ-2
「あんたも可哀相な子だねえ可愛い顔してたばっかしに」
「えっ」
思わず娘はほうきを持った手を止めて聞き返しました。
「えっ、て、そうなんだろう?あんたの顔を気に入って、あの狸が催促したんだって…ひ、ひいっ」
手を止めた娘を覗きこんだ女は腰を抜かして倒れこみました。
娘の顔は、まるで鬼のようだったからです。
「私が、こんな顔だから、屋敷のお姉さんにいじめられるの?こんな顔だから旦那様がすりついてくるの?看守が厳しいの?私がこんな顔だから…
何年も早く、こんなところへ…!」
もう娘は今自分が悲しいのか怒っているのかわかりません。自分の顔がにくくて憎くて堪りませんでした。
足早に台所へ向かうと、怯える娘も気にせず、包丁を奪いとって自分の顔へ突き立てました。
「これが…こんな邪魔な美しさっ!」
周りが叫び声と啜り泣きで満ちていくのも構わず、娘は何度も何度も包丁を振りかざしました。全てが真っ赤に染まり、整っていた娘の顔はみるみる内におぞましく変形していきます。
しばらくして、鏡でそれを見た娘は満足し、その場へ倒れこんだのでした。
「これで私は幸せになれるのね…」
そう言い残して、微笑んで。
ご静聴ありがとうございました。いかがでしたか?悲しい風習ですね。はは、ここで文句はご遠慮くださいね。
ああ、風の便りでは彼女は今も頑張っているようですよ。
みんなが幸せになれるように…。