『傾城のごとくU』中編-6
「さ〜あ、どうしてやろうか!」
2階に上がると、廊下の奥で両足を屈め、頭は床に着く位に低くして〈走り出す〉格好で構えている。
「さあチコ!下に行くよ」
私はジリジリとチコに近寄った。
あと3メートル。
2メートル半。
2メートル。
飛び掛かろうと思った瞬間、チコが私に目がけて突進して来た。
「このぉ…!」
慌てて捕まえようとする目の前で、チコは左に飛んだ。そして、左の壁を後ろ足で蹴ると、私を置いて階段を飛びながら逃げて行った。
わがコの成長ぶりには驚かされるわ……
下に降りて居間に戻ると、さっきまで読んでいた新聞の上にチコが座っているではないか。
カワイくない……
「ねぇ千秋。そろそろチコを洗ってあげたら?」
母の一言に私は顔を上げる。
そういえば、今までチコを洗ってやった事がない。家にずっといるから汚れないし、頻繁に固く絞ったタオルで拭いてあげてる。
「そうだね。寒くなったら出来ないもんね」
早速、お風呂場へ行って、湯船にお湯を入れておく。
「さぁチコ、お風呂に入る準備しよ!」
ノミ取り用のクシでチコの身体を撫でてあげる。家に居るためノミはいないのだが、毛を解いてやるとチコが喜ぶので使っている。
〈ゴロゴロゴロ〉と喉を鳴らし、目を細めてウットリとしている。時折、絡まってた毛が引っかかっり〈ニャウァッ!〉と手に噛みついてくる。
〈痛いだろ!〉と言ってるみたい。
ひと通りクシで解かし終り、
「お母さん。チコ、捕まえててくれる。私、着替えてくるから」
母にチコを任せ、自室へ着替えに向かう。体操着のスパッツに古いTシャツ、それに裸足で私は降りて行った。
「お母さん。ありがと」
チコを抱いてお風呂場のドアを開けると、脱衣所兼洗面所。奥のガラス戸の向こうがお風呂場。
最初、大人しく抱かれていたチコが、何かを察してイヤがりだした。