『傾城のごとくU』中編-5
〈ピピピピピピッ…〉
私は目覚ましと共に目を覚ました。
「うう〜ん…」
久しぶりに良く寝た気分。
伸びをして下に降りた。台所をソッと覗いて見る。餌入れは半分くらい残ったままだ。
さらに居間の寝所を覗くと、チコはスヤスヤと寝息を立てている。
な〜んだ、チコも運動不足だったのかぁ!
チコは気配を感じて身体を起こす。寝ぼけ目で私を見ているが、目は半分しか開いていない。
大きなアクビをして、長目の伸びをすると今度は目を大きく開いて私を見る。
「ニォ〜ン」
チコは小さく鳴いた。
「チコ!ダメよ。コラぁ!」
チコがわが家の一員となって半年が過ぎた。体長は30センチを越え、体重も1.5キロとなり、仔猫から中猫くらいの大きさに成長した。
おまけにシッポは体長と変わらないくらい異常に長く、成長盛りのためか手足も長いので、時々変な生き物にも見えてしまう。
また、大人しい猫だったのに、どこをどう間違えてしまったのか〈ワガママ猫〉の本性丸出しで、家の中を駆け回ったり、高い所に飛び上がったりしてる。
さっき、チコを怒ったのは居間で新聞を眺めていると、
「ニャ〜ン」
チコは私に近寄り、腕に頭を擦りつけて来た。〈ネェ、遊んでよ〜〉と言ってるみたい。
「ちょっと待ってね〜、新聞読んだらね」
そう言って頭を撫でてあげる。
チコは〈ゴロゴロ〉と鳴いて喜んでいたが、それきりで新聞に集中してしまった。
それを見て、私の気を引こうと居間の壁で爪研ぎを始めたのだ。
怒られたチコは、捕まえようとする私を見て、すごい勢いで廊下へ逃げた。
「コラッ!待て〜っ」
チコを追いかける。
ところが、逃げた廊下に姿が見当たらない。
「あれっ?ドコに逃げた…」
辺りを見回すがいない。私は振り返った。チコは壁にぴったりくっつき、身を屈めて私を見つめてる。
チコは目が合った瞬間、階段を駆け上って行った。2階へ行っても逃げ場がないのに……
「このバカチコ!絶対捕まえてやる」
私はゆっくりと階段を上る。あと数段で2階の廊下に届く。
そこを右に折れると、私と姉の部屋。あと1段で上がり切る手前で廊下を覗き込んだ。
やっぱり!角っこで構えてる。
そっと、手を伸ばしてチコを捕まえようとする。が、チコは気配を察して反転して逃げた。
しかし、奥に行っても行き止まりだ。