『傾城のごとくU』前編-1
「亜紀ちゃん!早く」
私は嬉しさから走って行く。
「ちょっと千秋、待ちなって…」
友達の亜紀ちゃんは、呆れ顔で私の後を付いて来る。彼女と2人、朝から近所のショッピングモールに訪れたのだ。
今日、わが家にやって来る仔猫のために……
『傾城のごとく?』
昨日の夕食時。
いよいよ明日、仔猫を迎えるという話題になった。
「明日はさ!亜紀ちゃんと必要な物を買いに行ってくるから」
私は嬉しくてたまらないのに、母のひと言で気持ちが落ち込んだ。
「千秋。必要なモノは自分で揃えるのよ」
「エーーッ!そんなぁ」
「当たり前でしょう。アンタが飼うって言ったんだから」
「私、そんなにお金持ってないし…」
姉の小春も言って来る。
「アンタ、お年玉貯金してたじゃん。アレ使えば?」
「あれだって大した額じゃないし…」
「じゃあ、千秋。こうしたらどうだ?」
父の言葉。私は続きを待った。
「必要なモノを揃えるお金は出してやるよ」
「ホントッ!!」
嬉声を挙げる私に父は〈まだ続きが有るぞ〉と言って、
「その代わり、オマエの小遣いから毎月千円返してもらう」
「エエッ!そんなぁ…」
(せっかく中2になって千円アップしたのに…)
「千秋が飼うと言ったんだ。猫のために、少しは責任を持たなきゃゃダメだろう?」
反論出来ない。仕方なく私は頷いて、母から2万円を借りた。
そして、今日を迎えた。
「これなんか良いんじゃない?カワイイし…」
肉球の形をしたベージュの餌入れ。亜紀ちゃんが選んでくれた。
トイレや寝所、キャリーバッグは、亜紀ちゃんが自分ン家の猫のおさがりをくれる事になったのだが、
「こっちも良いよね!」
亜紀ちゃんは色々な要るモノを、嬉しそうに選んで私に見せる。
私の猫なのに……