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『傾城のごとく』
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『傾城のごとくU』前編-6

「先生、本当にお世話になりました!また連れて来ます!」

「元気な姿を待ってるよ」

私は病院を後にした。
外はすっかり日が落ち、空は朱色と群青が入り混じり星が瞬いている。

私はキャリーバッグをヒザに乗せて帰路に着いた。




「ただいま!チコが来たよ!」

私の声に1番に反応したのは姉の小春だ。〈アンタが飼うんだから。私は知らないわよ〉などと言ってたクセに、

「見せて!ワアッ!かわいい、毛がふわふわ〜」

と、言いながら目がとろけてる。
父も母もチコを見る目が嬉しそう。とりあえず歓迎されたようだ。
チコは〈ジャーッ、ジャーッ〉と鳴きながら私達を見回している。
〈ココハドコ?アナタハダレ?〉と言ってるみたい。


私は寝所に貰ってきた毛布を敷いてチコを入れてあげた。
先生の話では、親や自分の匂いがすると安心するらしい。

チコはすぐに鳴き止み、寝所の中をおぼつかない足でクルクル回り、匂いを嗅いでいた。やがてコロンと座り込むと、寝所の壁に背中をくっつけるように丸くなった。
どうやら寝所と認めてくれたみたいだ。

「黒…いや、濃いこげ茶色かな」

父の言葉に頷きながら、チコの寝姿を眺めていると、

「あれ…?これは…」

気づかなかったが、寝所の下から電気コードが伸びている。

「ああ、それね。小春が持って来たわよ!」

「エッ!お姉ちゃんが?」

私は姉の顔を見つめた。
すると姉は、バツの悪い表情で視線を逸らす。

「仔猫の間は保温シートが必要なんだって。4月と言っても夜は寒いでしょ。
アンタ、気づいて無かったから友達から借りて来たのよ」

「…お姉ちゃん……」

「…そ、それよりも起きた時のためにトイレの準備とかしなさい」

そうだった。私は慌ててトイレに淡い水色の砂を移し入れた。

「でも、お姉ちゃん。よく知ってるねぇ?」

後で聞いた事だが、姉は仔猫の飼い方を友達に聞いていたそうだ。

「気持ち良さそうに眠ってるね」

姉と2人。寝所の前に座り込むと、チコの寝姿をいつまでも眺めていた。


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