投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『傾城のごとく』
【その他 その他小説】

『傾城のごとく』の最初へ 『傾城のごとく』 16 『傾城のごとく』 18 『傾城のごとく』の最後へ

『傾城のごとくU』前編-5

夕方5時。
居間の片隅に寝所とトイレを置いて全ての準備は終わった。
後はチコを迎えに行くだけだ。

しばらくは、付きっきりで世話しないといけない。私は自室でこれからの事を考えてた。

「そろそろ行くか?」

書斎に引き込んでいた父が、私を呼びにきた。

「エッ?お父さん一緒に行ってくれるの」

「一緒にって…オマエはどうするつもりだったんだ?」

「…自転車にキャリーバッグ積んで……」

父は呆れたように、

「…お父さんがクルマで行ってやる。すぐに用意なさい」

「うん!」

私は、居間に置いたキャリーバッグを持ってクルマの助手席に乗り込んだ。

「ちゃんと先生に注意する点を聞いてくるのよ」

見送りに来た母と姉の顔が笑ってる。空は眩しいほど、暖かい色に包まれてた。




「こんばんはー!センセエ!迎えに来ました」

父を残して、私は勢いよく病院のドアを開けた。

「いらっしゃい。上がってらっしゃい」

言われるまま、私は処置室のドアを開く。
先生はいつものケージを開いて、チコを寝所の毛布ごと処置台に乗せてくれた。

眠っていたチコ。
驚いたように目を開くと、私や先生の顔を見て〈ミー!ミー!〉と鳴きだした。

「4時過ぎにミルクを与えたから。後は3〜4時間おきにミルクと排泄をやってあげて」

「…すると、夜中もですね」

「いや、夜中は仔猫も寝てるから必要無いよ。そのかわり朝を早めにね」

「分かりました!」

「3週間後位に1度連れて来なさい。その後は離乳食になるはずだから」

「ハイッ!」

「ちょっとでもおかしいと思ったら連れて来るんだよ」

毛布と一緒にチコをキャリーバッグに入れた。不安を全身で表すように、目を見開き小さく震えてる。

私はその姿に亜紀ちゃんの言葉が浮かんだ。

〈ウチに貰われて来て、良い人生を全うしたと思われるように…〉

気持ちが引き締まる想い。


『傾城のごとく』の最初へ 『傾城のごとく』 16 『傾城のごとく』 18 『傾城のごとく』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前