『傾城のごとくU』前編-5
夕方5時。
居間の片隅に寝所とトイレを置いて全ての準備は終わった。
後はチコを迎えに行くだけだ。
しばらくは、付きっきりで世話しないといけない。私は自室でこれからの事を考えてた。
「そろそろ行くか?」
書斎に引き込んでいた父が、私を呼びにきた。
「エッ?お父さん一緒に行ってくれるの」
「一緒にって…オマエはどうするつもりだったんだ?」
「…自転車にキャリーバッグ積んで……」
父は呆れたように、
「…お父さんがクルマで行ってやる。すぐに用意なさい」
「うん!」
私は、居間に置いたキャリーバッグを持ってクルマの助手席に乗り込んだ。
「ちゃんと先生に注意する点を聞いてくるのよ」
見送りに来た母と姉の顔が笑ってる。空は眩しいほど、暖かい色に包まれてた。
「こんばんはー!センセエ!迎えに来ました」
父を残して、私は勢いよく病院のドアを開けた。
「いらっしゃい。上がってらっしゃい」
言われるまま、私は処置室のドアを開く。
先生はいつものケージを開いて、チコを寝所の毛布ごと処置台に乗せてくれた。
眠っていたチコ。
驚いたように目を開くと、私や先生の顔を見て〈ミー!ミー!〉と鳴きだした。
「4時過ぎにミルクを与えたから。後は3〜4時間おきにミルクと排泄をやってあげて」
「…すると、夜中もですね」
「いや、夜中は仔猫も寝てるから必要無いよ。そのかわり朝を早めにね」
「分かりました!」
「3週間後位に1度連れて来なさい。その後は離乳食になるはずだから」
「ハイッ!」
「ちょっとでもおかしいと思ったら連れて来るんだよ」
毛布と一緒にチコをキャリーバッグに入れた。不安を全身で表すように、目を見開き小さく震えてる。
私はその姿に亜紀ちゃんの言葉が浮かんだ。
〈ウチに貰われて来て、良い人生を全うしたと思われるように…〉
気持ちが引き締まる想い。