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『傾城のごとく』
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『傾城のごとくU』前編-14

「おばあちゃん家。この近く?」

「小野さん家は知ってる。そのとなりよ」

亜紀ちゃん家のそばだ。

「おばあちゃん。私、先生に訊いてみるよ。後で、おばあちゃん家に教えに行くから」

お婆さんは〈ありがとう〉と言ってくれた。私は処置室に入って行った。

検診の結果、チコはどこも異常は無く、先生に離乳食のやり方も習った。そして、お婆さんの猫の事も。
先生は〈生を焼いて与えたら〉とアドバイスをくれた。私は早くお婆さんに教えてあげたいと思った。




「ただいま〜」

帰宅すると、母がチコのミルクを用意してくれていた。
私はタイミング良くチコのミルクとトイレを済ませ、ひと段落したところで母にお婆さんの事を言った。

「お母さん。私、ちょっと行って来るから」

「行ってあげなさい。お婆さん、喜ぶわよ」

私は自転車でお婆さん家を目指した。




「泉…ここだ」

そこは確かに亜紀ちゃん家のとなりだった。
広い庭にはたくさんの樹木が植えられ、小さな古い屋敷が奥の方に見える。
私が玄関に回ろうとした時、お婆さんの声がかすかに聞こえた。
私は庭の方に回って屋敷を見つめる。そこには、お婆さんと猫が縁側で春の日射しを浴びていた。

(…なんだか、良いなあ…)

その姿に、ほのぼのとした気持ちになった。でも、お婆さんのそばにあったお皿を見て私は驚いた。アジの開きが乗っていた。

「おばあちゃん!ダメよ!」

気がつくと、私は庭に無断で入りお婆さんの前に立っていた。

「このコ死んじゃうよ!それでもいいの!?」

「でも…このコ、他には食べなくて……」

「このコは、おばあちゃんのゴハンしか食べれないのよ!私、先生に聞いて来たから」

「エッ?」

「生のアジを焼いて与えればって。私、買って来たの」

私はアジの入った袋をお婆さんに差し出した。

「ねっ、さっそく焼いてみて!」

お婆さんは震える手で袋を受け取ると、〈ありがとう…ありがとう…〉と何度もお礼を言ってくれた。

その後、チコの検診で何度か病院でお婆さんに会った。
でも、ある日を境に全く会わなくなった。聞けば猫の体調が良くなり、病院に来る必要が無くなったらしい。

私は嬉しくなった。


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