幼馴染みの定義-5
おれが袋を手にぶらさげ、ハナは気ままに歩いている。
実に何年ぶりだろうか。
「それ、何のために持ってきたんだよ」
ハナの策に使われ、今となっては憎らしいあたり棒を指さす。
「何のために生まれて、何をして生きるのか」
聞いたことのあるフレーズだった。 アニメのオープニングの歌詞にあるようなありきたりの…。
「答えられないなんて、そんなのは嫌だと思わないかな? アイくんは」
そのまんまだった。
「意味がわからん」
「つまり、自分の役目は果たして何なのかわからずに存在してるけど、周りに自分という存在を知ってほしくて、必死に自己アピールしてるからお前も見習えって言いたいらしいよ、あたり棒さんが」
「あたり棒はあたり棒であって、ちゃんとした役目があるだろ。 更に意味がわからん、お前はあたり棒の何なんだ」
「ふふ。 彼女、だったりして」
ハナが笑った。
ゴシック体の「1」が「2」に変わる。
「オスか」
「オスじゃないよ、立派な男性。 紳士でね、どっかのお馬鹿なアイくんと違って、すごく優しいの」
「毎回そうだったが、わざわざ他人、他棒の良いところをおれと比べるんじゃない。 「アイくんと違って」を何回聞いたかわからんぞ」
「だから、周りの人、棒よりも良いオトコになってほしいっていう、お隣さんからの些細で遠回しなアドバイス」
「お隣さん?」
反射的に聞き返してしまった。
「え? うん、お隣さん」
なんてこった。
おれが『幼馴染み』だと自称してるだけだったのか。 とんだ空回り、まるでピエロだ。
胸に穴が開いたような、尻が二つに割れたような、よくわからない複雑な気分になった。
「いや違う、尻が二つに割れたってなんだ」
「お尻? もともと割れてるじゃん。 あはははっ、下品だよ、アイくん」
ハッと気づき、思わず手で口を覆う。
同時に脳の中に「3」が浮かぶ。
そうだ。 思い出した。
「ちょっと聞いてくれないか?」
「愛の告白以外なら聞くよ。 もっとも、アイくんは絶対にそんなことしないっていうか、できるワケないだろうけど」
もう『幼馴染み』だろうが『お隣さん』だろうが何でもいい。 おれの目的はひとつだ。