幼馴染みの定義-11
「ありがとう。 わたしのこと、そんなふうに思ってくれてたなんて、わからなかった。」
息を吹きかけられる度にくすぐったい。
「わたしの中でキミはずっと大好きな幼馴染みで、まだまだぜんぜん会えるんだから、このままの関係でいさせて」
だけど、心地の良い、高級のバニラアイスより甘い吐息、甘い声だ。
「隣を訪ねればいつだって会えるから」
それは、短い時間の甘味な出来事だった。
「じゃあね、大好きな幼馴染み。 アイしてるよ」
顔を上げて周りを見ても、幼馴染みはいなかった。 キャッチボールをしていた親子もいなくなっていた。
おれの隣には、高級アイスが入ってるビニール袋がひとつ。
いや、よく見ると、縦に「あたり」と表記された棒も入っていた。
袋からカップを取り出し、蓋を開けた。
「……はは、ちゃっかりしてやがる」
中は空っぽで、ほんのりと甘い匂いがするだけだった。
数年後のこと。
郵便受けに手紙が入っていた。
送り主は……東堂 英恵(トウドウ ハナエ)改め、水木 英恵(ミズキ ハナエ)。
『ご機嫌うるわしゅう、藍くん。元気にやってますか?
最近はお日柄も良く……なんてカタっ苦しいことはめんどくさいので、概要を話しマス。
ハナちゃんこと私、東堂 英恵はこの度、水木 繁信さんと結婚し、水木 英恵として人生を歩くことになりました。
後悔は、うん、絶対にしてないと思う。自分で決めた道だし、悔いはない。その証拠に今はおはようのちゅーとおかえりのちゅーといただきますのち(以下長文略)
藍くんはちゃんと真面目に仕事してる?女性の胸ばかり見てない?最近はリストラとかが絶えないらしいからね、がんばるんだよ!ちんちんもちゃんと振るコト!(なんちて)
それと住所を書いておくから、たまには顔を見せに来てね?
大好きだよ、アイしてる。なんて書いたら浮気になっちゃうかな?
また手紙、送りますね。 永遠の幼馴染み ハナより 』
心穏やかな気分だ。 素直に喜べる。
幼馴染みとは、切ろうとしても切れない関係らしい。
今、実感した。