光の風 〈風神篇〉前編-12
「皇子。」
判断を求める声が千羅から投げ掛けられる。
「探すぞ。」
足早にリュナの部屋から二人は去っていく。まだ近くにいるはず、早足がいつしか走っていた。
頭の中で警戒音がなる。
確実に不穏な空気が城の中に流れていた。嫌な予感がして仕方がない。
「千羅。」
「はい。」
「頭の中で警戒音がなっている。」
本来なら足が止まりそうな話だが、足は進めながら二人は会話をした。カルサの言葉の意味を千羅は深く理解している。誰よりも強く分かっている。
「分かりました。」
低い声が靴音よりも響く。
「決して離れません。」
強い言葉で響く。千羅の言葉は誓いだった。もう二度と同じ失敗はしない、もう二度と同じ思いはしたくない。
あの時そう強く願い、誓った。
「そうか。」
そう応えたカルサの表情は穏やかだった。安心を得られた、そんな気持ちの表れだった。
「瑛琳をリュナの方に戻しますか?」
「いや、あっちの方が気になる。」
リュナは何が何でも見つけだす、そうカルサは続けた。そうですね、千羅がそう答える。
「約束をしたんだ、守ると。」
たとえ今、目の前に居なくても鮮明に映るリュナの姿。彼女に伝えた言葉か、自分に誓った言葉なのか。
「絶対に危険な目に合わせないと。」
もし危険な目にあっても。
「必ず見付けだして、守ると決めたんだ。」
確かな足取り、彼の意志は強く彼自身を支えていた。その思いの繋がる先を彼は気付いているのだろうか。千羅は確かめたくなる。
「でしたら、もしもを考えず生きぬかねば。生きていなければリュナはもちろん何一つ守れません。」
カルサは自分の言葉の深さを気付いていなかった。千羅によって知らされた意味にはにかむように笑う。
「そうだな。」
何かを守るためには自分の命は必要不可欠、リュナを守り続けることは己の命も守り続けることになる。めぐりめぐって、今のカルサを生かし動かしているのはリュナの存在だった。
同じ様に、今のリュナを生かし動かしているのはカルサの存在だった。
誰もいない廊下を彷徨うようにリュナは歩いていた。目は虚ろか、意識がはっきりしているようには見えない。