星と二人-1
「冷てえ…」
十二月のある冬空の下に、俺はいた。冷ややかな風が吹き付けるベランダに出て、もうすぐ一時間。
今年一番の冷え込みだって、気象庁の人言ってたな。
別に天体観測が趣味じゃない。では何故俺はここに居るか?
「コーヒー…煎れてきたよー…」
窓からひょっこり女の子が出てきた。彼女は、まあ、俺の彼女、みたいな。
そうさ俺がここに居るのは彼女が空が見たいと言ったから。別に彼女にも星を見る趣味はない…はず。
今日の夕方、電話をかけてきて言ったのだ。
『ほ、星が、見たい…な』
と、一言だけ残し電話は切れた。
「鼻、赤い…よ」
「え、あ。だ、大丈夫」
「…とらえもん、みたい」
そうかい、君が笑ってくれて嬉しいよ。
こうなのだ、彼女はこうなのだ。白い指で鼻を撫でてくれるわけでも首をかしげて心配してくれるわけでもなく。ただ、俺と某人気アニメのキャラと重ねて微笑むのだ。可愛いなあ畜生。
「星、あるね…」
そう呟いてちょこんと俺の隣に腰を降ろす彼女。長い髪の毛が揺れた。おお、月に整った顔が照らされて絵になる。
「…じゃあ、見よっ、か」
さて、どうしたものか。
二時間経ち、先程の台詞を最後に一向に喋らない彼女。一心に夜空を見つめている。それは邪魔しちゃならないことみたいで俺も口が開けず、空と彼女を交代に見る。
結構肉体的にきつかったり、する。きつかったりするから、そろそろ切り上げようと口を開いたとき。
「見て…あの、星。」
彼女の細い指を追うと、群青色のなかに二つでくっつきそうな距離の小さな光があった。
「あの二つ?それがどうかしたの」
「あれ、近い…でしょ?」
「うん」
「ずっと…見てたの」
まさか、この二時間あの星だけを。あれだけを凝視してたのか。いや、そんな訳ないさ。せいぜい三十分ちょっと…
「ずっと見てた、けど…離れない、の」
「うん?」
きっと二時間見てたんだな。
と、そこで彼女が俺の袖の裾を掴んだ。どきり。
「私と、君も、そうだと…いいな、って」
彼女はこんなこっぱずかしいことも真顔で俺の目を見て言える。
でも、俺はそんなの恥ずかしくて仕方ないから。こんな不意打ちとか、あっという間に耳まで熱くなってしまうから、すぐに返事ができなかった。
「…うん」
できなかったから、彼女を横から抱きしめてみたけど、嫌じゃなかったかな?
ああ、「嫌じゃない」って。
「嫌じゃない」って言って、彼女も俺を抱きしめてくれた。