我が校-1
「仰げーば尊し…我がー師の恩ー…」
窓際で最近やっと覚えた歌を小声で歌ってみた。音は風に運ばれて飛んでいくように見えた。
私は今日、あと一時間でこの中学校から卒業する。
「えー、中学で過ごした三年間ですが、非常に濃いものだったと思います。友達と先生と先輩後輩…いろんな人と築いた三年という月日を君達の白い翼に乗せー…」
「もーいーよ先生ー、笑って終わろうぜー」
誰かがそんな台詞を差し込んで、クラスが沸いた。
担任は新品らしいネクタイを締め、教壇にそれらしく手をついて微笑んでいる。この時点で目を潤ませる友達もいた。私は頬杖をついて外を眺める。
私の翼。私の翼って、どんなのだろう。
そんなことを考えながら
「みなさんが大きく羽ばたけるよう祈っています。一年間、ありがとう」
年に数えるほどしか起きない拍手が起きた。私もぱちぱちと手を鳴らした。
式まで四十分ある。思い出を語るもよし、寝るもよし、泣くもよし…自由だそうだ。
友人との会話もほどほどに、私は赤いネクタイを締め席を立つ。窓の外には青い空が広がっていた。
「そつぎょう…私、卒業するのかあ」
聞き慣れない言葉である。歴代の先輩もこんなことを呟いたりしたのだろうか。
こうして少し黄ばんだ壁を眺めたり、どこか隅で一人涙を流したり、何も考えず校内を歩きまわったり、胸についた青いリボンに微笑んでみたり。
そんなことを、したのだろうか。
「ご卒業ー、おめでとうございまーす…」
二年前、三年生に贈った言葉を今度は自分に。思わず苦笑してしまう。
ぶらぶら、校内を一周した。そこまで大きい学校じゃないけど、ゆっくりゆっくり歩くとそれなりに時間がかかったらしい。
『三年生は式場に向かって下さい』
校内放送を聞いて慌てて教室へ向かった。
『さ、三年生の入場です…拍手でお迎え下さい』
緊張気味の見知った後輩の声がして、肩の力が抜けた。そのおかげでリラックスした状態で私達の卒業式は進行した。
卒業証書を受け取り、全校で騒がしいハーモニーを奏でたが、この時点でも私の涙腺は微々ともしなかった。
周りは鼻を啜る音と鳴咽が満ちてきているのに。
「私達は、羽ばたきます。皆様、ありがとうございました!」
生徒会長の言葉で、卒業式は綺麗に幕を閉じた。