社外情事?5〜難航のプレゼントとこめられたコトノハ〜-11
「…本当にしゃれたプレゼントじゃない…」
そして、現れたのは確かな笑み。
どうやら、気に入ってくれたみたいだ――内心で誠司は安堵する。
「…気に入ってくれたみたいで良かったです」
しかし安堵のあまり、それが口をついて出てきてしまった。彼は慌てて口を押さえ、彼女の様子をうかがう。
「…サファイアねぇ…」
もっとも、玲はネックレスを両手でつまみ上げ、頷くかのような笑みを見せるばかり。誠司に注意を払うような素振りは全くない。
「…本当に、しゃれたプレゼント…」
――だが、何か引っかかる。
彼女の笑みに、何か別の意味があるような気がしてならない。それは漠然としていてはっきりとはわからないが、どうもあまり良くはないような気が――
「…ねえ、誠司君」
不意の呼びかけ。思考にふけっていたせいか、誠司の肩がびくりと震える。同時に、「は、はいっ、何でしょうっ」といううわずった声まで出てしまう。
すると玲は、彼のそんな様子がおかしかったのか、くすくすと笑った。
「別に怒ったりしないのに、そんな反応しちゃって…可愛い」
「え、あ……可愛いって、そんな…」
一方、落ち着いてきた誠司は、可愛いと言われた事に若干不満そうな目を向けた。だが、それを前にしても玲の笑みは止まらない。
「ふふ…ごめんなさいね」
ネックレスを箱にもどし、両手の指を組み、その上に顎を乗せながら、彼女は謝る。
「……一つ質問、いいかしら?」
そして、いつもの調子で言葉を続けた。
「…サファイアの石言葉、何だか知ってる?」
今度は、頭の中に疑問符が浮かぶ。
ネックレスにはめられた宝石の石言葉を聞いてくるとは、一体どうしたのだろう。
もしや、他の女性――すなわち湊とプレゼントを選んでいた事が、悟られてしまったのだろうか。
いや、それは有り得ない。痕跡など残してはいないし、玲の性格を考えると、いちいち回りくどい言い方をしないで率直に切り出すはず。だから、ばれているというのは考えられない、はず。
ならば、何故彼女はそんな質問をしたのだろうか。
頭の中を幾つもの自問自答が渦巻いて、誠司を混乱の中へと放り込む。その結果、玲の質問に答えるだけの余裕がない。
ない、はずなのに。
困惑した目でふと玲を見た時、彼は自然と混乱の渦から抜け出した。
否、彼の「思考だけ」が、と言った方が正しいだろうか。
彼自身は、未だ混乱の渦に呑まれていると思っている。そして、抜けたはずの目まぐるしさを錯覚して、意味もなく慌てふためくばかり。思考の独立に気付いていない。
そのうち業を煮やしたのか、彼の思考は勝手に物事を考え始め、玲の質問に対する答えを、すぐさま弾き出した。
「…慈愛と、誠実…ですか?」
その瞬間、誠司は自分が渦から抜け出していた事にようやく気付く。そして、自分がいつの間にか彼女の質問に正直に答えていた事にも気付く。
だが、それについて後悔している暇はなかった。
「…勉強が少し足りなかったみたいね。それとも知り合いから聞いたのかしら?…まぁ、どっちでもいっか…」
――何故なら、玲の笑みが妖しいものに変わったから。
彼女がこういう笑みをするのは、逢い引きの度に必ずやってしまう情事――その前触れ。もうすっかり慣れてしまった事。だが、今回は明らかにその度合いが違う。
妖しさ。
漂う色香。
艶っぽい視線。
どれを取っても、明らかに数割増しの状態。慣れてしまったからこそ「何かある」と確信できる笑み。
誠司の喉がごくりと鳴り、額に一筋の冷や汗が伝う。
「…教えてあげるわ」
玲が、席を立つ。そして、誠司の背後に回り込んで、後ろから抱きつく。
「サファイアにこめられた、もう一つの石言葉」
手が、胸を、腹を、ゆっくりとさすって、太股に至り、彼のズボンの付け根をいやらしく触る。
耳にふくよかな唇が近付けられ――