社外情事?5〜難航のプレゼントとこめられたコトノハ〜-10
「ま、それでも頑張って若社長やってるんだけどね」
そう言って笑みを、今度は誇らしげなものに変える。それを、彼女らしいと思いながら、誠司はシャンパンを一息に呷る。
「ご苦労様です」
そうしてから続いた労いの言葉ではあったが、それに対し玲は首を軽く横に振り、普段の笑みを浮かべる。
「ふふ…それはお互い様よ。社員には社員なりの苦労があるし、社長には社長なりの苦労があるんだから」
「…そんなものですかね?」
「そんなものよ。本来、比べるようなものでもないしね」
そして、玲もシャンパンを呷る。空になったグラスを置いてから、彼女はテーブルの上に置かれた料理から、野菜を取り始めた。
「…さ、食べて。せっかく私が腕によりをかけたんだから」
「あ…じゃあ、遠慮なくいただきます」
それからは、しばしささやかなディナーが続く。
静かな談笑をしたり。
料理に舌鼓を打ったり。
冗談で見つめ合ってみたり。
――そして、玲が腕を振るった料理が幾らか減ってきた頃。
「…そうだ、玲さん。俺、渡したい物があるんですよ」
誠司は、手持ち無沙汰にスプーンを揺らしていた玲に切り出した。対する玲は、スプーンを置いて頬杖をつきながら、口元に笑みを浮かべる。
「渡したい物?それって、クリスマスプレゼントって事かしら?」
そして、軽く茶化すような事を言う。
玲さんらしい――そんな事を思いながら、誠司は肩をすくめた。
「そう思ってくれて構いません」
「ふぅん…なかなかしゃれた物、用意してくれるじゃないの」
「…それ、普通は中身を見てからの台詞じゃないですか?」
苦笑。思わず切り返しながら、誠司は少し離れた所に置いた自分の鞄を取ろうと、席を立った。
「案外そうでもないわよ?」
すると彼の背中に向かって、玲は笑んだまま更に切り返す。それを聞きながら、誠司は鞄を手に取った。そしてすぐに席へと戻る。
「…もしかして、俺がクリスマスプレゼントを用意してたのが意外だったんですか?」
席に着くと、誠司は鞄の中に手を入れながら、少し意地の悪い質問をしてみた。
「いいえ、むしろ用意してると思ってたわ」
だが、当然玲は動じず、至って普通に答えた。
「…しゃれた、っていうのは、これが誠司君からの初めてのプレゼントって事。聖なる夜に初めての贈り物って、何だかしゃれてるじゃない?」
「あ…なるほど」
更に、続いた理由に誠司は、思わず納得してしまった。
それと同時に、彼は一抹の不安を覚えてしまう。
果たして、彼女はこのプレゼントを喜んでくれるだろうか――と。
しかし、もう選び、買ってしまったのだ。後はなるようにしかならない。
「…じゃあ、玲さんが気に入ってくれるかどうかはわかりませんけど…」
心の中で覚悟を決めた誠司は、意を決して鞄から箱を取り出した。そのまま、テーブルの上で玲に差し出す。
「…これ、クリスマスプレゼントです」
「ふふ…どんなのかしら?」
それを受け取りながら、玲は微笑を浮かべる。
その手が、包装を剥がす。箱を開ける。
そして、彼女は誠司のプレゼント――サファイアのネックレスを目の当たりにした。
「……わぁ…」
第一声は、驚きの表情からこぼれた感嘆。