辛殻破片『我が甘辛の讃歌』-8
僕達は再びテーブルを囲っていた。 一人だけ欠けているけど。
その欠けている人物の所在を聞いた。
「脳が混乱してる様子でしたので、お風呂場に連れて落ち着かせました」
と、聖奈さん。
「今はシャワーを浴びてます」
言い方が悪いが、聖奈さんなりに機転を利かせてくれたのだろう。 凪がこの場にいると昨日の話はし辛い、故に凪が別の部屋にいる間、話を済ませてしまおうと、そう考えたのか。 流石は大人だ。
「買い物に行く前に、由紀奈ちゃんに" お風呂に入れさせてあげて下さい "と頼んでおいたはずなのですが…どうやら入ってなかったようで」
「まったくあいつは…デコピンでいいか」 …まあ、結果オーライということで。
凪が食べていたカレーは僕が処理することになった。 お腹が空いているからとは言え、一応得にはなるものの、なんだか素直に喜べない役回りな気がする。
「とりあえず姉貴は置いといて…。 さて、やっと真面目に話が出来る状態になったな」
透の切り出しにより、脱線することなく上手い具合に『話』を進められた。
当然と言えば当然になる。 それでもやっぱり、僕の記憶にはない事実が山ほど隠れていた。
凪の情報を聞いたあと『僕と養父の関係』を二人に話すのは相当躊躇した。 だけど話さない訳にはいかなかった。
" 凪の異変は僕の異変によって発生した "という仮説を、自分自身で作ったから。
この世界のどこかにいる『親子』や『兄弟』、『姉妹』とか、『双子』なんてのも当てはまる。
血の繋がりがある二人はお互いの位置が『脳波』の電波で把握し合えるという。
もちろん両方が把握出来る訳ではない。 AがBの脳波を感知し、Bは自分の元にAが飛んできて「どうして?」と困惑…そんな例外なパターンもある。
だが僕が知ってる限り、これらの話はあくまでも『血の繋がりがある同士』、即ち『家族』内の二人に起きる特殊な能力。
『何か』の繋がりじゃ起きない、『血』の繋がりがあることで初めて起きる能力だと、ずっとそう思っていた。
もしも僕の仮説が真理だとするなら、話は違う方向に姿を見せることになる。
「ちょっと話を変えちゃって悪いんですが、この近くに精神科の病院ってありましたっけ?」
聖奈さんに聞いたつもりだったが、その問いには透が答えた。
「いや、無かった。 ひとつ隣の市内なら数件あったけど……料金が高かったな。 その上、あまり良い噂は聞いていない」
「それで、その病院で何をなさろうと…?」
「いえ、精神科医の人なら…」
と言い掛けたところで根本の問題に気づく。
「…そうだ、お金がない」
「………ふーん」
透が勢いよく席を立ち、次に放った一言で空気が好転する。