彼女だけ視えるアカイ世界-1
「今日は体調、良好かい?」
………その言葉はもう聞き飽きる程耳にした。
私は彼のいつもの挨拶にいつものように「ええ」と短く答えて、再び瞼を閉じる。
―――眼を開けていると良からぬモノを見てしまう。
「今日持って来た血液パックもA型のやつなんだけど………大丈夫かな?」
「――――………ええ」
正直言うと、A型の血液は飲み飽きてしまった。
やはりA型の血液は手に入り易いのだろうか、彼はA型の血液を持って来てくれる事が多い。
だけど飽きてしまった。余り美味しいと感じない。
少し、苛々する
「身体、まだ満足に動くかい?」
「ええ。でも少しずつ身体機能が低下してるのを感じる。時期に動く事すら不可能な身体になるでしょうね」
困ったな。と彼は血液パックの端を切るとグラスに赤い血液を注いでゆく。
ストローを挿す。クルクルと中身を掻き回して私のもとへ歩いて来る。
「君は血を飲んで生きて行く吸血鬼だろ? こうして血液を提供してあげてるのに身体が弱っていくなんてどう言う事だい?」
「――――――………」
瞼を開ける。世界が一変した。
グラスを受け取る。
私は玉座に座ったままだ。
震える唇をストローに付ける。赤い液体が吸い出され白色のストローが赤く染まる。
「ンッ……」
今日の血液は少し薄い。不味い
それでも飲まないと私は死んでしまう。
「ンンッ……」
無理やりにでも流し込む。今はとても苦痛だ。
こんなモノを幾ら飲んだところで私の身体に活力なんて戻らない。
―――新鮮で生温い血液が欲しい。肉を噛み千切って直接喉に流し込みたい。
「まだ巷じゃ君の騒ぎが納まっていないからね。もう少しだけここで大人しくしていてくれ」
彼が私の髪を持ち上げる。
一本一本。丹念に櫛で手入れをしていく。
「――――………」
私は彼に成すがまま。抵抗なんてしない。
手入れされた髪は、再びサラサラと重力に任せて落ちてゆく。
「綺麗な髪だ。この世の物とは思えない」
鼻を擦り付けられる
不様なので止めて欲しい
彼は私の、この茶色の髪がいたくお気に入りのようだった。
私としてはこの長い髪がウザったくもある。だけど彼が「このままが良い」と言うから仕方なく切らずに伸ばしている現状